『人物を創る』
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ある有名な学者・評論家に、「どうして君はソ連や中共の提灯持ちをやるのだ?」と訊いたら、「その方が得だからね」と答えたということでありますが、これが実際の本音であろうと思う。そもそも日本の思想が混乱してきた原因は、もちろんいろいろありますが、政策的・政治的に言って混乱の始まりは、第一次大戦直後の政友会内閣が党利党略を兼ねて旧制高校の増設をやったことであります。そのために従来の八高校が二十余の高校に増加し、教員の不足を中学校の教師を昇格させてこれに当てた。ところがなんと言っても大戦後のこととて思想が極度に混乱して、懐疑的な思想や否定的な行動が流行する。またそういう著作が宣伝紹介される。そういう時ににわか教授たちは、どうすればこの時勢に、若い学生たちに受けるかというので、みんな便乗して盛んに否定的懐疑的な文学や評論を宣伝したのであります。こうして日本の高等教育機関の混乱が始まったと申してよろしい。第二次大戦後もまた同じであります。