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『孟子(上)』
P27

 孟子は譬えて説明することが巧みであり、用語はさし迫った強い言葉を使わぬが、〔読むものに〕自分ひとりで考えて自然に悟らせるのである。たとえば、その言葉に「およそ詩〔経〕を説くには、一つ一つの文字にとらわれて、一句の意味をとり損ねてはならぬ。また一句の意味にとらわれて、全体の意味(作者の真意)をとり損ねてはならぬ。つまりは、自分の心で作者の真意をよく酌みとって説いてこそ、はじめて詩が分るというものだ」というのがあるが、孟子のこの言葉は後の世の人々に作者の真意を深く探求させ、それによって全体の意味をよく理解させようとしたものであって、ただたんに詩を説く場合にのみ適用されるべきものではない。ところが、現今多くの注釈者は往々一字一句を拾いとって解釈をしておるだけで、〔とかく全体の意味がなおざりにされ〕、したがってまたその説くところは〔自然に作者の真意とかけはなれてしまい〕、殆ど各人それぞれに食違っていて同じではない。
 孟子が逝かれてからこのかた五百余年もたち、この書物を伝えた人々も今日までにすでに数多おるのである。