https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

『国家(下)』
P147

「それなら、善についても同様ではあるまいか。他のすべてのものから<善>の実相を区別し抽出して、これを言論によって規定することのできない人、―思惑を基準とするのでなく、事柄自体のあり方を基準として吟味しようと熱心につとめながら、あたかも戦場におけるがごとく、吟味のためのあらゆる論駁を切りぬけ突破して、すべてこうした中を不倒の言論をもって最後まで進みおおせるということのできないような人、―そのような人は、<善>そのものはもとより、他のいかなる善きものをも知ることがないと、君は言うのではないか。かりにたかだか、その影のようなものに触れることがあったとしても、それは思わくによって触れているのであって、知識によるものではなく、かくてこのような人は、今生を夢と眠りの内に過ごしながら、この世で目を覚ますより前に冥界に行ってしまい、こんどこそ完全な眠りにおちてしまうことになるのではないか?」