『新訂 民法總則(民法講義Ⅰ)』
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しかるに、近世の個人主義的法思想には、私権、ことに個人の自由と財産についての私権をもって、国家以上の絶対不可侵のものとなし、法以前の天賦不可譲のものと考える傾きがあった。しかし、この思想は、封建制度を打破して個人の尊厳を確認するためには、限りない大きな功績を残したけれども、理論的に是認しえないだけでなく、現在の法思想にも適合しない。のみならず、この思想が、私権の絶対不可侵性を強調したのは、それによって社会共同生活がどうなってもかまわないと考えたのではなく、そうすることによって社会全体の向上発展が企図されると考えたのであった。従って、第十九世紀の末から、主として富の偏在による社会事情の変化のために、その思想によっては、もはや社会全体の向上発展を企図することが不可能となった以上、私権の社会性・公共性を確認することは、その思想の進展だということができるであろう。