『法学の基礎』
P15
しかも、道徳ないし倫理は、個人をこえて、社会的なもの、すくなくとも社会心理的なものとして現れることを忘れてはならない。社会倫理といわれるのがそれである。「人倫」の「理」であるところの倫理は、和辻哲郎(1889−1960)の説によれば、人間共同態の存在根底たる道義を意味する。それは個々の人間の主体性を離れては考えられないとともに、個々の人間をこえる人間共同態に妥当するところのものである。和辻は、絶対的否定がおのれを否定して個となり、さらに個を否定して全体に還るという運動そのものが人間の主体的な存在であり、いっさいの人間共同態を可能ならしめているものは、まさにこの運動にほかならないと論じて、この間の消息を解明しようとしている