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『峠(上)』
P162

 継之助は小田切のことを、
「学問を出世のたねにしているやつだ。ああいうやつが世の中でもっとも悪い」
 といっている。
 大工左官ならばかまわない、と継之助はいう。大工左官が職をみがき江都第一等の腕になればりっぱに食える。しかし学問の道はちがう。この道は技芸の道とはちがい、一国一藩の政治の道につながっている。学問で俗世間の名誉を得れば藩はその者に政治を攬らせるだろう。そういう性根の男が政治をとれば影響するところが深刻である、一国の腐敗につながる、だからもっとも始末がわるい、と継之助はいうのである。