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これまでの「今日のつまみ食い」より

 封建制度にいろいろの缺陥があつた、そして其等の缺陥のために我我は封建制度を立憲制度に換へたのである。併し鼠を焼かうとした火は納屋をも焼きはしなかつたか、封建制度とともに其に結附いてゐた忠義、武勇、多量の雄雄しさや人情味が我我より喪はれはしなかつたかを、我我は惧れるのである。

 純粹の意味の忠義は、主君と臣下が相互に直接相接してゐる時にのみ、可能である。諸君は兩者の間に『制度』を持つて來て見給へ、さうすれば主君はもはや主君ではなく統治者であり、臣下はもはや臣下ではなく人民であるが故に、忠義といふものは存しないのである。斯くして憲法上の權利の口論が現れ、人は爭論の解決を法典に求めて、そして昔の慣はしのやうに心を問ふことをしない。

 我に仕ふべき我が主君のある時、あるひは我に慈むべき我が臣下のある時、自己犠牲と其の凡ての美しさが現れるのである。封建制度の強みは、治者と被治者との間の關係の、此の人格的な性質に存する。

 其の本質に於ては、封建制度といふものは、實は一つの國民に適用された家族制度であるのである。それゆゑに、其が完全な形に達した場合には、其は理想的な政治形態とならざるを得ない。如何なる法律も憲法も、「愛の律法」より善いもの或は高いものはないからである。

内村鑑三著『代表的日本人』(岩波文庫)より

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