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シリーズ――ポスト・サブプライム(3):NBonline(日経ビジネス オンライン)

 丹羽宇一郎 まず、今回のサブプライム問題で言えるのは、人間というのは同じような過ちを、歴史的にも何回も繰り返すということです。米国人だろうが日本人だろうが、成功、失敗、成功、失敗を繰り返してきました。

 それは人間の心の持ち方というものが、非常に大きな影響を与えています。つまり強欲。世界のどの国を問わず自己愛、自己中心的になり、高い志は消失していきました。これらのことが重なって、今回の国際的な金融危機というものを生み出してきたのです。

 本当は、これだけのリスクを残したことをまっさきに反省し、その報いも受けなくてはならないのに、いまだに高い給料をもらおうとしているわけですよ。私だったら即刻、「給料を半分にしてしまえ」と思うんだけど、そうするとその社員は逃げてしまう。そうなると、人が資産の会社だから、何を買ったのか分からなくなってしまう。

 私だったら、逃げる者は逃げても構わないと思う。本当に、彼らの能力で儲かったとは思いません。リスク分析に甘く、イケイケどんどん環境だったからで、知能が優れていたわけでも、どこそこのMBA経営学修士)を持っていたからでもない。

 現地のビル建設ラッシュの裏には、ある著名なアナリストリポートがありました。「需要から比べると供給不足だから、今作るのはチャンスだ」という趣旨のものです。そのアナリストリポートを皆、自分だけが入手したと思っていたのですが、実はあちこちに出回っていたのです。

 それを見て、皆が一斉に建設に走れば合成の誤謬、不動産価格の暴落は避けられません。こうした落とし穴などは、商売するうえでどこにもあるものなのです。しかし、目先の儲けに目がくらむと、現地に行って、少し調査すれば分かるようなことも、見落としてしまうのです。

世界の通貨は、1971年にスミソニアン協定が結ばれ、それまでの基軸通貨固定相場制、金の交換取引が崩れてから、ペーパーマネー、要するに金の裏打ちのないドル紙幣が世界中に流通するようになった。それによって、巨大な虚構の世界が作られてきたのです。

 80年代半ばにはロンドンで金融ビッグバンが起こり、91年にソビエト政権が“自壊”し資本主義の独走が始まると、この無から有を作り上げる動きは加速していきました。その中核になったのが住宅です。

 ―― 今回の金融市場の動揺は、いつ終息するのでしょうか。

 丹羽 もうそろそろ終わりでしょう。なぜか。このバブルがはじける前までは虚構の経済と実体経済の乖離が3.5倍もあった。それが、今回の下落でおそらく50%は縮まり、実体経済にかなり接近してきた。

 最近のIT(情報技術)バブルなど過去の事例から、株式の時価総額で言えばGDP国内総生産)の6掛け、7掛けぐらいまで株が落ちれば、だいたいバブルはほぼ整理される。後は実体経済がどこまで傷んでいるかによる。PBR(純資産倍率)で見ても、解散価値の1倍未満の会社が上場会社の8割も占めたような事態は、明らかに異常ですよ。

そして今回も、おそらくこの中で儲かる時は金持ちが儲かる、損をする時は貧乏人が損をする。

 今回の金融危機で我々が気にしなくてならないのは、世界の貧しい人たちが実は、最も大きな被害を受けてしまうこと。

 こんな状態で、お金をばらまいたって誰も喜びませんよ。ワーキングプアで、所得が年間200万円以下の人々が求めているのは、お金ではなく、自尊心を持って働ける場です。「働きたいのに働く場がない」。だから怒っていたり、困っているわけです。

 今回の政府の対策は、そういう人たちに「5万円給付するから頑張ってください」と言っているモノです。私だったら、「俺をなめるな」です。

 行き過ぎた資本主義の独走をチェックしていく意味で規制は必要でしょうが、本来から言えば、おのおのの経営者が自ら考えること。国家があれもこれもと出ていくと、禁酒法を作ると法の網目をかいくぐる悪人が出てくるのと同じです。

 ですから、無茶をすれば、国民が許さないという社会にすべきなのです。情報開示、透明性の向上、社会に対する説明責任の堅持と、この3つの原則を徹底させる。政府がいちいち規制するものではありません。

自分のこと、自国のことだけを考え、他人や社会、他国のことを忘れてしまうから、バブルを生み、富を偏在させ、規制を肥大化させてしまう。

 自立と責任ある行動を忘れると、その報いがマイナスの形で返ってくることを、今回のサブプライム問題から我々は学ぶべきです。

本日の名言−丹羽宇一郎氏