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『青年の大成』
P88

 自分では志を持たぬのではないが、如何せん身体が弱い。不幸にして病弱なために勉強ができないと、いかに多くの青年男女が悲観していることでしょう。
 一応もっともです。しかし甘い同情はなんにもなりません。むしろ気概のある者からすれば唾棄すべきものです。病弱は志の如何によっては、時にその逆ですらあり得る。病弱なるが故に勉強できるということも言えるのです。病弱で勉強ができぬということは絶対にない。
 よくよくの重病か何かならば別、いや、重病なら重病の学問・悟道もあるはずです。まして病弱でできないなどとは言えません。そんな人間は生きる意義も価値もない。死んだ方がましだ!と考えたら、それから勇気が出て、丈夫になるかもしれない。そういうものです。人間の妙理というものは。
 恐らく誰知らぬ者もない「廃人の奇蹟」はヘレン・ケラーでしょう。
 この人はナポレオンとともに一九世紀の奇蹟といわれた婦人です。この人は生まれて二歳のとき、脳膜炎をやって、眼も耳もだめになってしまった。これは実に悲惨なことです。幸いに家がよかったので、両親が非常にこれを悲しんで、あらゆる方法を講じたけれどもどうにもならない。
 それでもあきらめずに、あの電話の発明で名高いベルの助言を聞き、サリバン女史という非常に慈悲と智慧に富んだ婦人がありまして、この婦人に附けることができました。その温かい行きとどいたいろいろの看護のもとに、この不幸な少女は無事に育って、育つばかりでなく、だんだん盲で聾でありながら知能を啓発して、ついに数ヶ国語をよくするようになり、ハーバード大学に入って、当時婦人としては奇蹟的な業績を挙げるまでに至りました。
 一九世紀の奇蹟の一人といわれる所以です。
 このヘレン・ケラー女史がある席で述べた感想に、結局人間は努力です。努力することによって開発されぬ何物もありません、と語っております。これは人間の肝に、銘ずべき至言であります。

奇跡の人 ヘレン・ケラー自伝 (新潮文庫)

奇跡の人 ヘレン・ケラー自伝 (新潮文庫)

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