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大前研一 日本経済を突然襲った円高とドバイショック

 今回の円高ドル安は、アメリカのFOMC連邦公開市場委員会)での議論に端を発している。FOMCは、「FRB連邦準備制度理事会)は、世界金融危機の後に買い取った多額の資産を売却すべきではないか」という議論が委員会内にあることを発表した。これはFRBのバランスシートを縮小させ、準備預金の水準を下げるための手段としては有効なものではある。


 ところがこの発表は、世界経済に対して大きな影響を与えた。金融危機後に買い取ったFRBの資産は実に100兆円規模になっているが、この資産を市場に売却して償却するとどうなるか。それだけの吸収余力はアメリカにも世界にもない。むしろ今は世界中で貯め込んだドルをいつどういう形で市場に放出するか、個人も企業も、また中央銀行なども皆が密かに考えている最中なのである。アメリカのファンドマネージャーなどはドルを売って金を買え!と真顔で叫んでいる人も多いし、少なくともリーマンショックの後の巻き戻し期間中に返済資金として不足していたドル需要も完全になくなっている。そういう微妙なときにFRBの抱えていた分までが現実に市場に放出されたら、ドルの価値が大きく低下するのは確実だ。


 またアメリカの経済学者や評論家(例えばフレッド・バーグステインなど)の中には、ドル安が米国企業の競争力を増すので好ましい、などと今さら言う輩もいてノイズを増している。こうしてドルの信用が大きく揺らいだため、世界的にドル安に一気に進んだのである。そんな中、12月からはリスボン条約が発効して新生EU欧州連合)の誕生となったが、期待の大統領職も強いリーダーをイメージしていた人々には失望につながり、ドルの受け皿としてのユーロも気合いが入らなくなっていた。それが結果的に円の独歩高を招くことになった。