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【日曜経済講座】編集委員・田村秀男 甘い鳩山東アジア共同体構想

中国は東アジアを「人民元の海」にするための布石を各所で打ち終わり、2010年から本格的に戦略展開する用意を整えたのだ。

 中国は1月、東南アジア諸国連合ASEAN)との自由貿易協定を発効させる。中国はこの自由貿易対象地域全体を「自由貿易区」と呼ぶ。この用語は何やら、「解放区」を連想させる。

 解放区とは1930年代から1949年の中華人民共和国建国まで、中国共産党が日本軍や蒋介石総統率いる国民党政権との戦いを通じて占拠した地域のことである。解放区の統治と拡大のためには武力ばかりではなく、解放区の銀行が発行する紙幣「辺区劵」が日本の軍票や国民党の「法幣」を駆逐、圧倒する必要があった。

 アジアでの人民元の浸透作戦は、まさしく解放区方式を思わせる。まず国境周辺のベトナムラオスミャンマー北朝鮮、さらにロシア極東部と交易を通じて人民元建てのビジネスを活発にする。

 これと合わせ、出稼ぎ労働者や経営スタッフを大量に送り込む。中国資本はこの数年間で人民元専用の経済特区ラオスミャンマーから租借して建設した。中国資本が人民元専用のカジノ賭博場を建て、ギャンブル好きな中国人観光客を人民元の札束を手になだれこませる。特区内の公用語、標準時間、通貨のすべては中国と同じである。

 特区方式だけでは、アジアの人民元化に限界がある。ASEAN全域が中国の自由貿易区になることで人民元を一挙に東南アジア全域に普及させるチャンスが到来した。

 人民元のアジア通貨化作戦の担い手は、最大の国有商業銀行である中国工商銀行と国際化が最も先行している中国銀行である。

 北京は人民元建て決済促進のためには外銀も使う。香港に一大拠点を持つ英国の香港上海銀行グループ(HSBC)は11月、インドネシア人民元建ての貿易決済サービスを開始した。

 中国が思い切った人民元経済圏拡大に踏み切るきっかけになったのは「リーマン・ショック」である。中国は未曾有の金融危機が起きると、ただちに人民元をドルにペッグ(釘打ち)し、対ドル・レートを固定した。中国の取引先は為替変動リスクを被る恐れがなくなり、相手も人民元建て貿易決済を受け入れる。同時に、ドルの大量発行にあわせて人民元札の印刷機をフル回転させている。人民元の大河は周辺アジアに注ぎ込み、拡散する。