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日本人はなぜ市場競争が嫌いか〜大竹文雄・大阪大学教授に聞く(上)|辻広雅文 プリズム+one|ダイヤモンド・オンライン

―日本では有力な政治家や著名な評論家が、市場経済の批判に際して「弱肉強食」という表現をいまだに好んで用います。しかし、それは勉強不足であって、弱肉強食がまかり通る経済の仕組みを市場経済とは言えません。公平・公正な競争ができるようにルールや運営方法を整えるのが市場経済の本質であり、独占禁止法などさまざまな法制度や監督機関が整備されてきた。それでも、強者が弱者を蹂躙するような市場であれば、それは市場の質が低いということだから、高品質化する努力をしなければならない。これが先進諸国の常識ですが、日本では通用せず、市場経済自体の否定に向かってしまう。なぜでしょうか。

 市場競争のメリットを享受するのは誰なのか、議論が整理して行なわれなかったからかもしれません。市場競争のメリットとデメリットを、これまでは日本社会全体が、生産者側に立って考えてきました。製造業にしても金融業にしても農業にしても小売業にしても、競争に負け、倒産する者が増えると、かわいそうだ、競争の行きすぎだ、という同情論と同時に競争規制論が沸き起こります。


 しかし、市場競争のメリットは、そもそも競争にさらされている人々ではなく、消費者が享受すべきものです。生産者にしてみれば、自由裁量が効く市場独占がいいに決まっています。だが、それは消費者にとっては最悪の状態です。よりよく、より安い商品やサービスを消費者に提供するために、生産者は市場で競争する。そこで敗者が生まれたとしても、消費者が受け取るメリットが大きくなれば経済社会は発展する。


 我々消費者は、誤解していました。生産者側の競争の敗者を、弱者として認識し、同情してきました。だから、弱肉強食を叫ぶ政治家を支持してしまいます。ですが、その結果、競争が制限されれば、そのメリットは生産者に与えられ、本当の弱者は消費者になってしまうのです。生産者は絶えず厳しい競争にさらされる。脱落したものは政府の所得再分配政策によって救済、再チャレンジの機会を与えられる。競争の最大限のメリットは消費者が受ける。

 民主党政権は「コンクリートから人へ」を標榜し、鳩山由紀夫総理は経団連での会合で、「生産者ではなく、消費者の視点に立つ」と言い切りました。その政策転換の意味を本当に理解しているのなら、市場競争を促進するのが当然です。

 市場の競争で格差が生じたら、それに対する基本的な政策は二つです。第一に、政府による社会保障を通じた再分配政策によって格差を解消することであり、第二に、低所得の人々には技能を身に付けさせて、高い所得を得られるように教育・訓練を充実させることです。貧困問題を解決するのは政府の責任であり、米国ですら多くの国民はそう考えています。ところが、先進国の中では日本だけが市場だけでなく、政府も信用していません。

 現実にはリスクをシェアリングしてくれるはずの共同体はとうに崩壊し、会社は厳しい国際競争にさらされ社会保障機能を代替する余裕など失っているから、政府に求めるべきなのですが、現実と意識の間にずれが生じています。

市場機能も政府の再分配機能も好まない代表人たちかもしれません。でも、その二つの機能を無視して、社会保障機能を代替する共同体を再構築することなどできません。

 昨年の総選挙から最近までの鳩山さんの言説、演説などをたどると、当初は反競争的なイデオロギーが強く感じられましたが、最近は「自由な市場経済+政府によるセーフィティネット」という標準的な経済学の教科書的発想に変化してきています。


 しかし、鳩山政権が経済学の標準的な政策の組み合わせを本質から理解し、政策に実現させられるかどうかは、まだわかりません。民主党は主要支持母体が公民両方の労働組合であり、また、選挙対策を通じて農家などと結びつきを深めています。その蜜月を参議院選挙までと割り切り、そのあとは市場競争とセーフィティネットの組合せで整理してしまうのか、それとも、「市場競争の制限+再分配政策の強化」という経済学的には非常識な組合せを持続するのか、現時点では判断しかねます。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20100426#1272242041
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090519#1242695912