「人間は不道徳なことも考えると同時に神聖なことも考えることができる、そこにむずかしさとたのもしさがあるんだ」(山本周五郎 『ながい坂』)
江戸時代後期、富裕な7万8千石の外様大名の「お家騒動」の物語なのだが、さすがは周五郎。発表から半世紀たったいまでも読み応えのある、人間と、二転三転の政権交代のドラマになっている。
主人公は、三浦主水正(もんどのしょう)。その能力ゆえに下級武士から上士に抜擢(ばってき)されるが、だれが彼の敵か味方か、正か邪か、にわかにはわからない。冒頭の一文にあるように、登場人物は多少なりとも善悪をあわせもった人間として描かれている。
「人も世間も簡単ではない、善意と悪意、潔癖と汚濁、勇気と臆病(おくびょう)、貞節と不貞、その他もろもろの相反するものの総合が人間の実体なんだ、世の中はそういう人間の離合相剋(そうこく)によって動いてゆく」
そんな現実に主水正は直面する。そしてためらいながらも、渦のなかに飛び込んでゆく。
- 作者: 山本周五郎
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