日本人だけでも310万人の死者と都市の破壊、衣食住の苦難を国民に与えた軍部政権が敗戦によって崩壊したことは、結果として民主主義による再生を可能とした。それまで日本人の心を縛っていた国家神道は憑きものが落ちたように忘れ去られた。
皇室以外に身分制度はなくなり、天皇も人間宣言をして権力から分離された。男女同権、差別撤廃、農地解放、福祉充実など自由・平等の政策が推進された。その代わり、それまで日本人の心を一つに結集していた天皇を中心とする一体的観念(アイデンティティ)が失われ、精神的な空白状態が今に至るまで続いている。
戦後の日本人は、戦時中に味わった困窮の裏返しで、経済的・物質的繁栄を目標に走り続けてきた感がある。
本来、自由とは“権力からの自由”であり、平等とは“人権の平等”を意味している。この民主主義の原則をはき違えて、社会を無視して己れの欲望を満足させる自由や、努力を無視して結果の平等を求める現状では、社会の混乱が増大するばかりである。
本来の日本の伝統は、一神教を基盤とする欧米と違って、自然・社会と自分が一体となって共生する多神教的な「和」のシステムにあることを改めて想起しなければならないと思う。