歴史的外交失態と経済司令塔の混乱に見る “政治主導”のなれの果て|岸博幸のクリエイティブ国富論|ダイヤモンド・オンライン
政府内の幹部に聞いたところ、中国船長が釈放されるまでに、関係省庁の幹部が集まって官邸側と頻繁に議論をしていたようです。そこでの議論とまったく無関係に那覇地検が突然釈放という判断をするとは思えません。外交に無関係な那覇地検が釈放の理由として“日中関係への配慮”を挙げているのも、その証左ではないでしょうか。
一方、もし本当に司法に判断を任せていたとしたら、それは今回のような重大な外交問題で政治主導を放棄したと言わざるを得ません。それはそれで大問題ではないでしょうか。
私は、今回の対応の間違いの責任は前原大臣と仙谷官房長官にあると思っています。そもそも逮捕という方向を主導したのは、当時の前原国交大臣です。前原大臣は、船長が釈放されるまでは「国内法にのっとって粛々とやる」、「ビデオを見れば一目瞭然に分かる」と強気の発言をしていたのに、いざ釈放されると暫く何も発言せず、総理や官房長官に丸投げでした。
しかし、本来は外務大臣が対中国の最前線に出て来るべきではないのでしょうか。この数日また威勢の良い発言を始めていますが、釈放を司法のせいにしつつ国会では“逮捕は当然”と発言する姿には違和感を感じざるを得ません。
仙谷官房長官の「司法過程についての理解が(日中間で)ここまで異なるということについて、もう少し我々が習熟すべきだった」という発言に至っては言語道断です。
いずれにしても、尖閣諸島問題への対応が迷走し続けている原因を政府内の幹部に聞いたところ、「意思決定のプロセスがメチャクチャになっている。その中で、民主党の人たちは自分の体面だけを考えたその場しのぎの判断をするので、混乱しないはずがない」とあきらめ顔で言っていました。「尖閣だけではなく、すべての政策でそうなっている」とのことです。
その結果が外交史に残る今回の失態であり、それが北方領土問題でのロシアの悪乗りまで惹起したのです。私自身、国際機関で北朝鮮問題に携わった経験から、外交・国際政治はビジネス以上に生き馬の目を抜く厳しい世界だと思います。そこで情けない対応をしてしまったのですから、“池に落ちた犬は叩かないと”とばかりにロシアが動くのは当然です。
官僚主導の政策はB級だけど、その場しのぎや個々の政治家の体面ばかりを重視した政治主導による政策はそれ以下のC級になる、ということではないでしょうか。