日本では、1992年に会社の核となる理念のひとつとして「コアバリュー」を導入した。競争などに勝ち、成長することはもちろん重要だ。それもコアバリューの一項目に入っている。しかし、勝つことに加えて、顧客に焦点をあわせること、信頼に値すること、また(社員同士)お互いに尊敬しあうことが大切だ。そうした意識を共有できる人材をわれわれは欲しているし、高く評価する。
洋の東西を問わず、人が働くモチベーションはお金だけではない。周囲にその行動や能力が認知されることで、自分の働き方にプライドを持てるようになり、働きがいを感じられるようになる。かくいう私も同じだ。
リーダーその人が、どんな行いがコアバリューに合致した称賛に値する振る舞いなのか表彰を通じて周囲に示してあげることが肝要だ。それによって、その行いが職場に良い意味で伝播する。その結果、リーダーが何も言わずとも、社員が別の社員の中にコアバリューの理想的な実践を見つけ、周囲に伝えてくれるようなことも起こる。チームワークはそうして育つ。
個人として能力が高く、成功への意欲も強い、しかも当社の理念に共感し、当社の成長に貢献したいというチームワークのスピリットを持っている人は無尽蔵にいるわけではない。だからこそだが、当社は人材を採用する際に極めて厳しい目で臨んでいる。
確かに、個人の可能性をふさいでいる蓋を取り払って、自由に発展することを許せば、もっと何かを達成することはあるだろう。チームワークを重視し過ぎれば皆が同じ方向を向くことはできるが、平均的な結果しか出せない。クリエイティブでアンビシャスな個人が自己の潜在能力をフルに活用できるように仕向けてあげることが、特に日本社会におけるリーダーの腕の見せ所だ。
個人的な意見を言えば、私は、この日本的な部分をよりいっそう生かすことをむしろ考えたい。大枠は日本的なチームワークのモデルであり、そこに米国的な個人主義という要素を加えるのが、私の考える理想の職場である。
経営者に限らず、人にとって一番大切な性質は、一言で言えば、インテグリティだと思う。
(高潔、誠実、清廉などと訳される)インテグリティは、責任感と同義だ。仕事に対してだけでなく、自分の人生に対しても責任を持つべきだ。