日本側では、外務省などと連携して対米従属強化を目論んできた前原前外相が5月20日に訪米し、日本の主張を聞いてくれそうなダニエル・イノウエ上院議員(上院で予算案をまとめる歳出委員長)らを通じ、米側に、辺野古移転計画をやめないでほしいと頼んだ。
日本からの頼みを受け、米オバマ大統領は、5月27日のフランスでのG7サミットの傍らで行われた菅首相との会談で、今後も従前どおり辺野古移転計画を続けることを表明した。日米両政府は、辺野古移転計画を中止すべきだという3議員の提案を正式に拒否する趣旨の談話を発表した。
5月30日には、米国からイノウエ議員が訪日し、日本政府の閣僚らに、辺野古移転やグアム移転の計画を続ける米側の意志を説明して回った。合わせて、6月21日に日米2プラス2協議(外務・防衛大臣会合)を開き、2014年に設定されていた辺野古移転計画の期限を延期することを決める予定になった。6月13日には、北沢防衛相が沖縄県の仲井真弘多知事を訪問し、21日にワシントンで開く2プラス2協議で、辺野古移転計画が日米の正式な合意として再確認される予定だと伝えた。
しかし、話はここで終わらなかった。辺野古移転を中止すべきだと提案した3議員はしぶとかった。6月14日、米議会上院で、軍事委員会傘下の即応・管理小委員会(Senate Armed Services Subcommittee on Readiness and Management Support)が開かれ、国防総省が海兵隊のグアム移転計画などアジアの軍事戦略について、議会に対して十分な説明をしない限り、辺野古移転やグアムでの基地増設、在韓米軍の基地移設などにかかる防衛費を議会で可決しないことを決定した。条項は上院軍事委員会での検討を経て、上院の来年度の防衛予算(国防権限法案。NDAA)に盛り込まれる。
軍事問題の議会討論は非公開とされることが多いが、この日の討論は、同小委員会として15年ぶりに公開された。日本からの贈賄を受け、話をうやむやにしようとしている米政府(国防総省)のやり方に対し、議員の側は討論を公開し、海兵隊のグアム移転や在韓米軍の引っ越しが財政効率の悪い事業であることを、米国の世論に訴え、対抗しようとしていることがうかがえる。
5月末には、米政府の会計検査院(GAO)も、海兵隊グアム移転事業について「国防総省は、この事業にかかる総費用をきちんと計算しないまま事業を進めている」として、同事業が非効率だと指摘する報告書を発表している。
しかし国防総省は、日韓政府から駐留費の一部負担という賄賂を受け取り続ける目的で、日韓での移転事業を行っている。移転事業は、日韓政府から米軍への贈賄の口実に使われている。移転によって米国の防衛力にプラスになるわけでないので、国防総省は議会が納得するような説明ができない。
日本側のマスコミや外務省は、6月21日の日米2プラス2会議を「成功」と報じるだろうが、ここにも疑問がある。7月1日には米国防長官がロバート・ゲーツからレオン・パネッタに交代してしまう。パネッタは予算削減の専門家で、防衛費の削減のために就任するようなものだ。パネッタは先日の議会の公聴会で、普天間問題についての姿勢は就任後に決めると述べて含みを持たせている。日本からの収賄金と、米国の負担とを天秤にかけて、普天間問題に対する姿勢を決めるつもりかもしれない。
沖縄に駐留する海兵隊のグアム移転や辺野古の基地建設が進まなくても、日本政府は大して困らない。日本政府を主導する官僚機構の目的は、対米従属の国是を続けるため、沖縄駐留米軍にできるだけ長くいてもらうことだ。グアム移転事業は日本政府にとって、移転費の一部負担を口実に米国に贈賄し、在日米軍を引き留めるのが目的だ。
だから、米議会が今回の条項でグアム移転事業を阻止しても、短期的に見ると、日本政府は困らない。だが長期的には、海兵隊を沖縄に置く必要がないことが米側の議会と国防総省の間で再確認され、グアムがダメなら米本土(ハワイや加州)に海兵隊を移せばよいという話になるだろう。