https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

急接近:纐纈一起さん 原発の安全性担う国の委員を辞めた訳は?

 まずなぜ引き受けたかということからお話しします。原発への批判が多いことは大震災前からわきまえていました。ただ、作業部会の委員になった07年には国内54基全てが既に造られており、こうした原発の耐震安全性を改めて検討することは、税金で地震を研究する者の責務と考えました。引き受けるからには、科学的に正しい耐震安全性が適用されるよう信念の下、努力したつもりです。しかし、東日本の太平洋沖で全く想定外のマグニチュード(M)9・0の超巨大地震が発生し、信念の根拠となるべき科学に限界があることが明らかになった。この現実を考え、職を退くのが適当と思った次第です。

 54基の原発が造られた当時の審査は、記録を見ると正直、いいかげんだったと感じます。原発の耐震安全審査は、原子力安全・保安院の権限で行われ、必要に応じて招集される作業部会の意見は「審査の参考」という位置付けです。作業部会ではこの位置付けの中で全力を尽くしました。例えば、福島原発地震津波対策について、09年6月に「(869年の)貞観地震を考慮すべきではないか」との当時としては非常に先進的な指摘が委員からありました。東電はいろいろと言い訳をして「考慮する」と答えませんでしたが、保安院には貞観地震を審査で考慮することを認めさせました。その後、考慮した揺れの審査は行われましたが、2年近くたっても津波の審査は始まりませんでした。このように作業部会の意見を放置したことは保安院の責任です。

 私が主査を務めた間、保安院の担当者は公正だったと思います。しかし、「院内には非常に保守的な(原発)推進派がいて大変だ」と愚痴を聞いたことがあります。

 地震学は実験ができない制約の大きい科学で、過去に起こったことが把握できていない事象の予測は困難なのが現状です。これが限界だと思います。地震が起こる理論がきっちりできていれば、こうした予測は可能になるはずですが、そのレベルに達していない。

 基本的にはやめていくべきだと思います。世界最悪の地震国ですから。大震災の最大の教訓は、どんなに一生懸命に科学的に耐震性を評価しても、それを上回るような現象が起こる国だと分かったことです。それを考えれば、これから起こるすべての現象に備えられるような原発は造れないと思います。

 以前も内心は科学の限界に不安はありましたが、残念ながらあえて発言することはなかった。しかし、今回のような事態をふまえれば、むしろ成果だけでなく限界も併せて伝えることが一層重要だと心境が変わりました。この教訓に基づけば、日本国内どこでも、今回の規模の地震が起きる可能性があることを伝えていかざるを得ません。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20110812#1313159668