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中江藤樹 日々善をなせば、悪は去る

 実は、修身教科書に書かれているのはここまでである。しかし、実話であるこの話には続きがある。馬方の振る舞いにいたく感動した飛脚が、「あなたはどうして正直なのか」と問うたところ、馬方は次のように答えたという場面である。


 「わたしの在所(ざいしょ)の近所に、小川村というところがありまして、その村に与衛門(中江藤樹)という人がおられて、毎晩、講釈(こうしゃく)をなさいます。わたしも、ときどき行って聞いていますと、親には孝を尽くしなさい、主人は大切にするものである、人の物は取ってはならない、人としてあるまじき行いはしてはならないなどと、つねづね話されています。先ほど見つけた金子も、わたしの物ではないのですから、取るべき道理は何ひとつない、と心得たまでのことです」


 「徳を持つことを望むなら、毎日善をしなければならない。一善をすると一悪が去る。日々善をなせば、日々悪は去る」。藤樹は、身分に分け隔てなく、人としてあるべき道を平易な言葉で繰り返し説き、それゆえにこそ藤樹の言葉は人々の心に深く刻まれていった。「それ陰徳ある者は、かならず陽報あり」という言葉に通じる藤樹の実学的な道徳観と人間観に内村鑑三もまた強烈に魅せられたのである。