「ソクラテスは、己のすべてを惜しみなく分け与え、それを望む人々に最高を尽くすことに生涯をかけたのであった」(クセノフォン『ソクラテスの思い出』)
《彼(ソクラテス)はいつも議論していた。たとえば、敬神とは何か、不信心とは何か。美とは何か、醜とは何か。正とは何か、不正とは何か。思慮とは何か、狂とは何か。勇とは何か、卑怯(ひきょう)とは何か。国家とは何か、政治家とは何か。政府とは何か、統治者とは何か−と》
西洋哲学史の巨星、ソクラテスは紀元前470年ごろ、アテネに生まれた。東洋でいえば、儒家の創始者・孔子は10年ほど前に亡くなっており、仏教の開祖・釈迦(しゃか)が生まれる少し前のことである。
クセノフォンは、《ソクラテスはいつも市井の中に自分を置き、人類の友であった》と述懐している。また、冒頭の一文は《それは彼が人々を、彼のもとに訪れたときよりも善い人間にして帰したことでわかるというものだ》と続く。