「わからないかい? 真の意味で哲学を実践する人たちは、死ぬこと、そして死を全うすることを目的の一つとしているのだよ」(ソクラテス)
親友のクリトンは監獄に忍び込み、亡命を懇願した。が、ソクラテスの答えは「無実の罪で処刑するという不正に対して、逃亡という不正で報復することを神や法の精神は認めはしないだろう」だった。
「あなたが罪なくして殺されるのが何としてもがまんならないのです」と訴える若い弟子にソクラテスはこう言ってほほえんだという。「ならば、わたしに罪があって殺されたほうがいいのかね?」
新渡戸はソクラテスに日本にもなじみの深い陽明学の「知行合一(ちこうごういつ)」の思想を見、彼が死刑を選択したことを武士の切腹にたとえてこう説明している。
「それは恥を免れ、友を贖(あがな)い、もしくは自己の誠実を証明する方法であった」