『天翔ける日本武尊 上』
P228
二人の間に子供が生まれた。かわいい子供たちだった。それは認める。けれども、肝心要の二人の生活にすれ違ってしまう空しさを感じていた俺は、その空しさを埋めるために側女と戯れた。でもそれは戯れでしかなかった。戯れでしかないと思っているものが、空しさを埋められるはずがない。俺はそれにも失望した。
ところが問題が起きた。俺が側女と戯れたために、姫は俺を不信し、汚いものでも見るように軽蔑した。姫は清廉であり潔癖であることを善しとしていたから、俺を責め、そして裁いた。責められ、裁かれた俺がどんなに傷ついたかまでは、姫は心が回らなかった。姫は俺がそうしてしまったことの本当の理由を理解しようとしないまま、心を閉ざしてしまった。
二人の仲が決定的に疎遠になったのは、俺の罪ゆえの自業自得で、弁解の余地はない。
俺は未熟だった。それと同時に自分のものの見方で相手を一方的に裁く姫もまた未熟だった。それから数年して姫が早死にしたのは、俺に失望した寂しさもあったからだと思う。」それはただ申しわけなく思っている。
でも弟橘姫と一緒にいる時間は違った。
姫からまっすぐな信頼の眼差しを向けられるたびに、この信頼に応えたいと思った。こうして俺は失われた俺を取り戻していった。
そしてとうとう気がついた。
――ああ、俺が欲しかったのは、姫のような無条件な信頼の眼差しだ。俺は母の愛を求めて泣いていたのだ! しかし、母は俺の泣き声には気づかなかった。
愛は惹き合い、一体化する力である。それと同時に、相手のすべてを無条件で受け入れ、育むものだ。傷ついた者を癒し、本来の自分を取り戻させ、明日への活力を与えるのだ。夫婦の愛にはこの癒しの要素がなければ長続きしない――」
武はようやく夫婦というものの深遠な意味に目覚めた。