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【話の肖像画】歌舞伎俳優・坂田藤十郎(81)[3]

 当時、私が演じたお初は、戦後日本に登場した新しい女性像と重なるといわれ、社会的なブームを巻き起こしました。お初が、縁の下に隠した徳兵衛に素足を差し出して死ぬ覚悟を問う場面ですとか、夜中に徳兵衛と2人、心中に向かうところで、花道を徳兵衛の手を取って先に引っ込む場面に象徴されるように、女性が自分の意志で能動的に行動したからです。それで随分、新しい女形のように言われましたが、実は義太夫の息など、古典の素養の上に成り立っているものだったのですよ。

 お初に出会えたことは、私の役者人生、いや、私の人生のなかでも運命のようなものだと思っています。「曽根崎心中」で近松に出会い、「近松って深いなあ」と思って、近松という作家を生涯かけて追い続ける自主公演「近松座」を昭和56年に結成しました。近松は上方和事の創始者、初代坂田藤十郎と組んで「けいせい仏の原」など多くの歌舞伎作品を生み出しています。それが平成17年の「坂田藤十郎」襲名につながっていくのです。