【特別寄稿 岡崎久彦氏】第2期オバマ米政権 第2のニクソン・ショックはあるか
ニクソン・ショックは国際情報分析を生業とする私の転機ともなった。たまたま私が情報事務から遠ざかっていた半年間の、米中ピンポン交流や中国を孤立させないとしたニクソン氏のカンザスシティー演説を追いかけていれば十分予見できたことだった。あの時、キッシンジャー訪中を予告する電報を東京に送っていれば日本の政局にさえ影響していたかもしれない。
世界中の情報機関が調査分析といえば共産圏情報に特化してきた中、国際情勢の大きな潮流を掴(つか)むには何より米国情報とその分析が大事だということを、恐らくは初めて悟らしめたケースだった。「共産圏分析家などは偉そうな顔をしているが、本当に難しいのは米国の動向の分析なのだ」とは時の牛場信彦駐米大使の感想である。現に、20世紀は、米国の出方を読み違えて滅びたドイツ(2回)、日本、ソ連などの帝国の死屍累々(ししるいるい)たるものがある。
以来、米要人の演説や議会証言、主要紙社説、識者論文をフォローし米政治の流れを間断なく掴んでおく作業が、私の情勢判断の仕事の中心となっている。
そこで、オバマ、バイデン正副大統領、ドニロン大統領補佐官、ケリー国務長官の言動を見ていると、第2のニクソン・ショック、つまり日本に断りなしの対中接近がいつあっても不思議ではないように思う。
オバマ氏は2期目就任演説で、「我々は問題を平和的に解決する勇気を持つ。関与政策こそ長期にわたって猜疑(さいぎ)と恐怖を取り除くからである」と述べ、バイデン氏は夙(つと)にその論文で「冷戦的発想の対中戦略に与(くみ)しない」と明言している。
ドニロン氏は最近の演説で、「米中関係をライバルや対立という概念では捉えたくない。そして、台頭する大国は既存の大国と衝突する運命にあるという論理には反対であり、我々は中国封じ込めも拒否する」と言い、ケリー氏は国務長官指名承認の公聴会でアジア回帰に一切触れず、「中国の脅威に関しては、指名承認された暁に非常に慎重に調べてみたいことだ」と韜晦(とうかい)しつつ、「全ての行動には反作用が伴う」として中国脅威論を戒めている。