歌舞伎の指導に関しては、私は、上方の役者は「芸は一代」と思っていますので、基本は教えますが、手取り足取りは教えません。まず、自分で考えなさいと。わからないときは私に聞けばいい。それは自分がそうだったからです。
役の性根とか肝心なことは、みんな聞きに来ますよ。ただ、子供たちも孫も甘えた感じは全然ないので、それが一番いいなと思っています。役によっては、他の人に教えてもらっているようで、それも大切なことです。
私は、子供や孫だけでなく、芸を好きな人は全員、後継者だと思っているんです。幸い、東京の方でも、上方の歌舞伎が好きという若い役者さんが増えてきていますね。
〈藤十郎さんの考え方、芸に心酔している市川猿之助さんは「封印切(ふういんきり)」の忠兵衛などを、上方歌舞伎に果敢に挑んでいる市川染五郎さんは「乳貰(ちちもら)い」を藤十郎さんから教えを受けて取り組んだ〉
そういう人には、自分と近いものを感じるじゃないですか。芸が好き、ということが一番大事。この世界はそうでないと勤まりません。