自由に生きている人ほど成功して見えるのは デフレが原因。今後は「大組織モデル」も復活する! ゲスト:松本大・マネックス証券代表取締役社長CEO[前編]|ピカソの秘密|ダイヤモンド・オンライン
多くのビジネス書が仕事の効率化を謳っているのに対して、松本さんはご著書のなかで、仕事に向き合う姿勢として「仕事にプライオリティはつけず」「仕事の整理法も考えず」と書かれているのが新鮮に映りました。僕も自分の20代を振り返ると、松本さんと同じように、効率化や優先順位をつけることなどまったく考えていませんでした。目の前の仕事が楽しかったですし、お金を稼ごうという考えがあまりなかったからです。松本さんの仕事に対する姿勢は、20代の頃から変わっていらっしゃらないのですか。
やっていることは今と同じで変わっていませんが、20代の頃はそういうふうに行動していただけで、自分の考えやスタイルとして整理して自覚はしていませんでした。
僕は新卒でソロモン・ブラザーズに入社しました。今でこそ日本の大学を卒業後、新卒として外資系企業に入社する人も多いでしょうが、僕らがその「はしり」だったと思います。
期待に胸を膨らませて入社したものの、僕らの上にいた先輩たちは中途入社した経験者ばかりで、高給を取って、大きな仕事をやっていました。実績を積んで入社した彼らは、そもそもドルベースで高給を取っていたうえ、1ドル200円ぐらいのときに入っています。僕らが入社したころは120円ぐらいでしたから、ドルベースはもちろん、円にすると報酬レベルが全然違うわけですよ。当時のそんな状態に「入社時期が遅かったんじゃないか」と痛感したのです。面白そうで大きな仕事は先輩にすべて持っていかれる、報酬も違う。いい時代は終わってしまったんじゃないかと。そんな風に考えたのが、入社して1週間ぐらいでしたね(笑)
ただ、すぐに考え直したんですよ。ちょっと待てよ。すべてのことには「波」があるので、必ずまた次の波が来るはずだ、と。
野球でも、ボール球ばかりでは試合が終わらない。必ずストライクが来る。ストライクが来たときに確実に打つには、素振りをやっておかなければならない。ボール球しか来ないからといって寝転がっていると、ストライクが来たとしても絶対に打てない。来るのが遅かったんじゃないかと痛感してから数週間も経たないうちに、そんなふうに思い直したんです。それからはまったく悩まず、ひたすら働きました。
お金は「天下の回りもの」ですよね。私が初めてそう思ったのは、19歳のときでした。
お金は天下の回りものだと考えれば、気が楽になります。実際にそれで僕はお金の呪縛から解かれましたから。そう考えたほうが、お金の流れはよく見えるようになります。「傍目八目」という言葉がありますよね。お金にばかり執着していると、全体の流れは見えないと思うんですよ。
僕は自分の価値観がお金に縛られていると思っていて、だからこそお金とは何か、ずっと考えてきました。ちょうど松本さんが1999年にマネックス証券を起業されたころ、社会人になりたてだった僕は、自分の人生の可能性を制限するものとしてお金を捉え、性と同じように不浄のものと考えていたんですね。そんなときに、松本さんが「マネックス」という言葉をサラッと使われた。衝撃でしたね。この人はお金に縛られていない、自由な人なんだと。そんな松本さんは、お金以外で何か縛られているものがありますか。
縛られてないですねえ(笑)。僕は『お金という人生の呪縛について』という本のあとがきに、こんなことを書いています。
「そもそも自分という存在は社会のなかの一現象であり、実験的な研究材料を提供しているようなものです。そう考えると気が楽になり、しがらみから解放され、肩から力が抜けて自然体となり―」
結局「どこまで行きたい」「何かになりたい」「これだけ欲しい」と考えてしまうと、それとの対比で「できていない自分」に対して不安になったり焦燥感に駆られたりしてしまいます。あるいは、目標があると他人とつい比べて「自分はこれだけやったけど、あの人のほうがもっとすごい」と正当な評価ができなくなってしまいます。僕は「どこまで行きたい」「何になりたい」というゴール・セッティングがない人間なんです。
山口 友人で、僕の会社の取締役でもある藤沢烈くんは「常にフローで生きたい」と言っています。どんなにお金が手に入る可能性があったとしても、自分は毎日起こる現実を目の前にして、その瞬間を生きたいと。
松本 ご本人にお聞きしてみないとわかりませんが、大筋では僕の考えも似ているかもしれませんね。
僕が気になるのは「自分のキャパシティや出力に対して、100%出し切っているか、120%出すことができたのか」ということに尽きます。瞬間々々の生き方が自分のキャパシティに対して最低100%で、かつ、過去からの累積でも100%を超えているか。その積み重ねが僕の人生の羅針盤なので、世間一般に多いタイプではないかもしれません。
山口 なるほど。
松本 自分は他人にはなれません。他人と比較しても仕方がない。だから、僕は「自分ができたはずのことができていたか」を重視します。相手は他人ではなく自分。端から見ると束縛されていないように見えますが、自分が相手というのは、そんなに楽なことではないですよね。
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20130314#1363275445
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20080816#1218876263