インタビュー:利払い負担で資金繰り苦しく、財政不安定化も=池尾教授
<財政の奇妙な安定が崩れるリスク>
すでに異次元緩和の影響で、国債市場はこの1週間、乱高下を繰り返す展開となっている。
池尾氏は国債管理政策において不安定な状況が起こるリスクを挙げる。
「日銀が大量の国債を買い取ることで、これまで民間部門が保有していた国債が減るために、国債の需給が引き締まり、長期国債の利回りは低下する要因となるはず。一方で他の資産市場にシフトして国債市場から離脱する市場参加者の方が多ければ、かえって需給が緩み、結局利回りは下がらない。何らかのストレスが市場に発生することで、財政に伝播(でんぱ)してしまうリスクや、金利上昇の際のリスクが大きくなったともいえる」と不安を示す。
ただし「何が起こるかは、民間金融機関の行動次第だ。買えるだけの国債は買った上で買えない部分だけ外債投資に移すのか、あるいは、国債市場から離脱して他の投資先を本格的に求めていくのかによって、生じる結果も変わる。確定的なことはわからない」として、今後の市場の動きを見極める必要性を指摘する。
さらに大きなリスクとみているのは、デフレから脱却して景気が回復すれば、金利が上昇し、利払い負担が膨らむこと。「これまでは、デフレのもとで財政が奇妙な安定を保ってきたが、デフレから脱却して金利が上昇すると、財政の安定が崩れるというリスクがある。その際、成長率上昇による税収増と利払い費の比較になる。税収に比べて利払いが大きくなっているので、成長率が1%上がった場合、金利も1%上がると、税収増より利払い増が大きくなり、資金繰りが苦しくなる」というものだ。
そのうえで、デフレ脱却を目指す以上、財政リスクへの備えが欠かせないと指摘。「これだけの公的債務を抱えている国の首相が、金利上昇方向の政策を推進し、大胆な緩和策をとる以上は、それに見合った財政のコンティンジェンシープランが必要だ」と強調する。
アベノミクスが目指すデフレ脱却に向けた異次元緩和が、実体経済に本当にプラスの効果をもたすかどうかも大きな焦点だ。
この点について池尾氏は「影響は不確実としか言いようがない」として、客観的な論拠に乏しい政策との見方を示す。
「ある種の定性的な効果はあるだろうが、(数字や分析で示すことができる)定量的な見通しはない。たとえば金利を25ベーシス下げればこれだけの効果があると、確実に定量的な効果がわかっている金融政策というのはすでに使い果たしている」ためだ。
波及ルートについて、池尾氏も言葉による説明は可能だとする。「ベースマネーを2倍にするために民間銀行から長期国債という資産を取り上げて、その分準備預金を増やすというのは、銀行にとっては、資産の満期構成を短期化させることになり、サヤの稼げる運用に追い込まれ、ポートフォリオリバランスが起こりやすくなる」。ただし、「こうしたルートで、資産価格や為替レートに変化が生じ、輸出企業の収益や輸出数量による生産増、資産効果による民間経済刺激などの効果は期待できそうだというのは、あくまでも定性的にいえることでしかない。これはある種、人類史上初の実験なので、確実にこんな効果が出ると明言できる人は誰もいないはずだ」と釘を刺す。
<バブルが起こるストーリーにはなっていない>
また、今回、黒田東彦総裁がこれほどの大規模な緩和を打ち出したのは、予想インフレ率を上げるため断固とした姿勢を示したかったとの見方が一般的だが、池尾氏は「一体的な因果関係に裏打ちされていない限り、姿勢だけでは長期的にはなかなか(その効果を)信じてもらえないだろう」と厳しい見方を示す。「現実のインフレ率を上げるためには、需給ギャップを改善しなければいけない。2%物価を上昇させるには、GDPギャップが今現在から7%程度改善しなければばならないという分析があるが、円安効果や資産効果だけでGDPギャップが7%も埋まるかというと、そこは定量的に不確かとしか言いようがなく、現実的にも想定しがたい」として、2年で物価2%の実現は無理があるとみている。
一方で、副作用について「いわば、お酒をどんどんあおって気分がよくなるのと似ており、後で金融不均衡が蓄積するような二日酔いにならなければよいがと感じている」とみている。
もっとも一部で資産バブルへの懸念の声が挙がっていることについて「日本はまだバブルに至るストーリーにはなっていない」とみている。「バブルが生じるにはさまざまな条件が必要だと分析されている。金融の緩和的環境だけで起こるものではない。ある程度の人々が、新しいパラダイムがやってきたのだから資産などの値上がりは正当なものだと納得することが必要」だとする。池尾氏は、現在の日本でそこまでの認識の広がりには至っていないとみている。