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【鑑賞眼】四月歌舞伎座 心満たされ「幸福な時」に感動

 3年ぶりに歌舞伎座が新開場、●葺落(こけらおとし)大歌舞伎が始まっている。今月から6月までは3部制で、粋(すい)を集めた演目が並ぶ。


 第1部。新劇場の幕開きは、奏祝曲「鶴寿千歳(かくじゅせんざい)」。市川染五郎が公達(きんだち)に扮(ふん)し、新装舞台に第一歩を踏み出す。女御(にょうご)の中村魁春(かいしゅん)、祝祭の男女が続き、長寿の象徴、鶴の坂田藤十郎がセリ上がって慶事の舞で寿(ことほ)ぐ。


 続く「お祭り」。昨年末、急逝した十八世中村勘三郎に捧(ささ)げる舞踊で、故人が得意とした演目。坂東三津五郎ほかゆかりの俳優陣がにぎやかに踊る。中村勘九郎七之助兄弟に手を引かれ、勘九郎の長男、2歳の七緒八(なおや)が花道からかわいく登場のおまけ付き。


 見ものは、最後の「熊谷(くまがい)陣屋」。中村吉右衛門(きちえもん)の熊谷、その妻、相模は坂東玉三郎が25年ぶりに演じ、2人の怒濤(どとう)の哀(かな)しみを慈悲深くさばく義経片岡仁左衛門(にざえもん)の顔合わせ。熊谷が、敦盛の身代わりに満座の中でわが子の首をさらす“首実検”の場。剛毅(ごうき)の裏に無常を悟る熊谷と、悲哀の強弱のあんばいが絶妙な相模。尾上(おのえ)菊之助が初役で敦盛の母、藤の方、持ち役の弥陀六(みだろく)で中村歌六(かろく)と大きく華麗な配役でテンポ、リズムかみ合って、まさに“一声・二顔・三姿”の例え通り、心満たされる大歌舞伎である。


 第2部は、歌舞伎の面白さを堪能させる2題。「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」は、尾上菊五郎が代々演じた弁天小僧菊之助で登場。「浜松屋」から「勢揃(せいぞろ)い」…「土橋」まで。南郷力丸に市川左團次(さだんじ)、赤星十三郎に中村時蔵、忠信利平(ただのぶりへい)に三津五郎、日本駄右衛門(だえもん)に吉右衛門と五人男のツラネ(名乗り)が楽しい。


 「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)」は、玉三郎が怨霊(おんりょう)伝説で知られる平将門の娘、滝夜叉姫(たきやしゃひめ)で凄絶(せいぜつ)な美しさを見せる。幕開き暗闇の中、ろうそく2本の灯(あか)りだけで花道スッポンからセリ上がる玉三郎の妖艶(ようえん)さにはゾクッとする。常磐津に乗って踊る風情が絵である。尾上松緑(しょうろく)が武将、光圀(みつくに)役に初挑戦、滝夜叉が呼び出す大蝦蟇(がま)と屋根上での対決で極まる。


 第3部。「盛綱陣屋」。兄弟の武将が敵味方に分かれた故に起こる悲劇。盛綱に仁左衛門、盛綱母、微妙(みみょう)に中村東蔵、和田兵衛に吉右衛門。盛綱の弟、高綱一子、小四郎に8歳の松本金太郎。祖父の松本幸四郎、父の染五郎も同年代で演じた縁起役だ。長台詞(ながぜりふ)も切腹シーンも破綻(はたん)なく、早春の芽ぶきの味わい。盛綱一子、小三郎に松緑の長男、7歳の藤間大河も幼い武将を初々しく。花道で見得をきり、客席を和ませる。ベテランと新芽、歌舞伎界ならではの伝承の美学だ。


 打ち出しは、絶大な人気演目「勧進帳」。幸四郎の弁慶、菊五郎の富樫(とがし)で。弁慶役1000回超の幸四郎が入魂の芝居で“弁慶の時間”を楽しむから、客席も楽しむ。ラストの飛び六方の引っ込みでは、客席から万雷の手拍子が起こる。歌舞伎ファンは賛否両論。筆者はもろ手を挙げて賛成しないが、客席と俳優が一体となって酔う“幸福な時”を見て、どうして感動せずにいられよう。


 28日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20130401#1364826078平敦盛
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090515#1242382228(先代吉右衛門演ずる「熊谷陣屋」)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20130410#1365604096(弁慶による花道の飛び六方)