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【京都うまいものめぐり】洗練されたやさしい中華 盛京亭 

 京都で中華といってもピンとこないかもしれないが、京都でしか味わえない中華がある。作家、池波正太郎(1923〜90年)のエッセーにも登場する「盛京亭」は、一切の装飾をそぎ落とした定番メニューで知られる。焼き飯、酢豚、春巻、どれも滋味深い味わいが祇園かいわいの芸妓(げいこ)や旦那衆ら多くの客に愛され続け、60年超。あこがれの店を訪れた。

 さっそく、中華の定番中の定番で、池波正太郎が絶賛した焼き飯を注文。一口食べてみて、思わず「えっ、これが焼き飯?」と驚く私に「かやくご飯みたいでしょ? 具材を先に甘辛く炊く(煮る)んです」と隆雄さん。

 さいの目切りにしたタケノコ、ニンジン、豚肉をしょうゆと砂糖と焼き豚のタレで煮、冷まして味をなじませておく。中華の刺激的な味が最小限に抑えられ、具材の甘辛味がしっかり利いてくるという。確かに、口にするとパラパラほぐれるご飯と具の食感が絶妙だ。具材をほとんど炒めず、少量の油で仕上げるから、口の中でベトつかない。舌にも胃にもやさしい焼き飯はスイスイとおなかにおさまる。

 「開店当初は普通の中華やったんですが、芸妓さんや旦那衆から、脂っこいとか辛いとかいわれて…。この味にたどり着くまでは大変やったそうです」

 隆雄さんの父である初代が東京の「盛京亭」で修業し、この場所に店を構えたのは1951年。油をラードからさっぱりとした白絞油(しらしめゆ)に変え、鶏ガラと青ネギのスープは毎日とり直してあっさりとした味わいに。花街の近くなので、ニンニクは使わず、基本の味付けはしょうゆと砂糖。池波の著書「むかしの味」(新潮文庫)に記されていた通り「このあたりの客の舌によって磨きぬかれた洗練がある」味となった。

 こうした“京都の中華”を供する「盛京亭」は、地元の人はもちろん、歌舞伎、狂言、映画界のスターたちに愛されてきた。池波も、新国劇のスター、辰巳柳太郎に連れられてきたのが通い始めだ。中でも緒形拳の話は印象的。亡くなる数カ月前に来店したという。


 「何度も店の前までは来たけど食べるのは初めてだ、とおっしゃるんです」と隆雄さん。聞けば、緒形が辰巳の付き人をしていたころ、辰巳が食事を終えるのを店の外で立って待っていたという。「その日はたまたま近くに来たので、寄ってみようと思ったのだそうです」

 もう一つ、驚かされたのは、ぴかぴかの厨房。「開店前と閉店後に2時間かけて磨きます。お皿も全部もう1度洗います。営業時間が短くて申し訳ないんですが、仕込みと掃除の時間を考えると、これで精いっぱいなんです」と泰子さん。「うちで一番よく減るのは液体洗剤かも…」と笑いながら付け加えた。

 ■盛京亭 京都市東山区祇園町北側263。(電)075・561・4168。営業時間=正午〜午後2時、午後5時〜8時。定休日は月曜日と第2、4火曜日。昼のみに提供される小盛りの焼き飯と鶏からあげ、肉だんごがセットになったサービスランチ(1260円)も人気。

盛京亭

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