アングル:油断突いたドル100円、薄くなっていた「壁」を突破| Reuters
ドル/円が約4年ぶりの100円を回復した。通貨安競争の様相が強まるなか、大台回復は遠いとの見方が広がっていたが、海外投機筋が「油断」を突く形で大口のドル買いに動いたという。節目突破を3度阻んだオプション絡みの「壁」が薄くなっていたことも、急伸の背景となった。
<海外投機筋の仕掛け>
油断していた――ある大手邦銀のディーラーは悔しそうに語る。日本時間10日未明、偶然に目覚め、ドル/円の100円突破を知ってオフィスに急行したが、1回目の急騰劇はすでに終わっていた。
そのディーラーは、前日のうちに99.30円に大口のストップロスのドル買いがあることを確認、この水準を付ければ一気に100円を回復する可能性があると読んでいた。しかし、日本時間9日午後10時すぎに、ドル/円は98.80円付近から99.30円付近に急伸。その後はストップロスを巻き込む形で一気に大台を突破した。
日本時間9日午後9時30分に米国の週間新規失業保険申請件数が発表され、市場予想より良い内容になったが、ドル/円の上昇開始は統計発表から約30分後。指標が好感されたのではなく、午後10時ごろに海外の著名投機筋が大口のドル買いで仕掛け始めたことがきっかけだった。
ドル/円はその後、買いが買いを呼ぶ展開。「バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長の10日の講演がタカ派的なものになるのではないか」、「米30年債入札が好調だったが、日本の投資家が購入しているのではないか」――一こうした噂はどれもドル/円の騰勢を勢いづかせる「補助燃料」の役割を果たした。米30年債の入札結果は日本時間10日午前2時に判明したが、このタイミングでドル/円は再び急伸。ドル/円は、売りが薄く、損切りのドル買いばかりが並ぶ中を急速に駆け上がることになった。
財務省が10日朝発表した対外及び対内証券売買契約等の状況(指定報告機関ベース)で、対外債券(中長期債)投資が2週連続で資本流出超となり、国内勢(居住者)が外債を買い越す結果となったことも、ドル買いを加速させ、東京時間では一時101.20円まで上昇した。
<フラストレーション>
4月4日、黒田東彦日銀総裁のもとで「異次元緩和」が打ち出され、ドル/円は7円跳ね上がったが、100円奪回には至らなかった。大台突破を阻んだのは、100円手前に控えるオプションのバリアだ。
さらに5月に入り、欧州、豪州、韓国が利下げを実施。ニュージーランド準備銀行(RBNZ、中央銀行)は為替介入に踏み切ったことで、「通貨安競争」の様相が強まったことも、ドル100円突破の予想を後退させていた。
しかし、「異次元緩和」から約1カ月、ドル/円が100円を意識しながらもみ合うなか、オプションは順次、期限を迎え、「壁」は着実に薄くなっていた。「4月の100円回復が阻止されていたのはオプションの防戦売りだったと思われる。また、ゴールデンウイークを控えた日系企業の円買いや米国債の償還に伴う円転需要があったが、このあたりが足元では軽くなっていたので、何かのきっかけで100円という可能性は今週高まっていた」と三菱東京UFJ銀行の内田稔チーフアナリストは話す。
前出の大手邦銀のディーラーによれば、海外勢は近い将来の100円回復はないとみて99円より下で猛烈な売りを出していたが、98.50円から下に控える旺盛な買いに阻まれてドル/円は下がりきらず、しびれを切らしていたという。このフラストレーションが、9日ニューヨーク市場での「反転攻勢」の素地の1つになったとみられている。「米景気回復期待が高まったというが、それは関係ない。要はポジション」──大手邦銀のディーラーは、意表を突かれたドル/円の100円回復劇をこう振り返る。
ただ、節目を一度突破したドル/円は下方硬直性を強めている。みずほ証券チーフFXストラテジストの鈴木健吾氏は「実需の売りなども一定程度想定されるので、もう二度と100円を割らないとまでは言えないが、下値は限定的となってくる」と指摘。1)貿易収支などフロー構造の変化、2)政府・日銀の政策の継続、3)欧米景気回復による消去法的円買い圧力の減少──の3つの要因で、来年にかけて110円を目指すとの見通しを示した。