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すっかり軍国主義復活と見られている日本 - 仲宗根 雅則

安倍首相はどこから見てもナショナリストであり、ナショナリストであること自体には何の問題もないと思います。ナショナリスト、つまり右派がいるから左派もいます。大事な点は立場を鮮明にして堂々と自らを主張し、友好国のアメリカや今やほとんど敵対国とさえ言える中国や韓国などとも十分に対話をして行くことだと思います。タカ派の宰相とは言え、安倍さんはまさか中国や韓国と戦争をしようとは思っていないでしょうから。


このまま行くと右寄りに傾きつつある日本の国論がどんどん右に曲がり続けて行く、という危険は常にある訳ですが、前大戦の総括を未だにしていないとはいえ、わが国の世論が戦前のように好戦的な方向に突っ走るとは僕には思えません。

この「TIME」の議論も安倍さんを始めとする日本の保守派の右傾化をはっきりと指摘しながら、
「米国の政策立案者たちは安倍首相にこれ以上の強硬姿勢は歓迎しませんよ」
と明確にシグナルを送っている、とも書きます。

「アジアでは比較的歓迎されているアメリカと違い、日本は同地に多大な害を及ぼした70年前の軍国主義のレガシー(負の遺産、後遺症)を引きずっていて、近隣諸国の幾つかに疎まれている。それというのもドイツ人と違い、日本の政治家達は戦争時の日本の罪悪に関して曖昧な態度を取りこれを隠蔽しようとする場合さえあるからだ。同時に軍国主義日本の最も大きな犠牲者である中国と韓国の指導者たちは、大衆の日本への憎しみをさらに焚き付けて、これを政治的に利用しようとする」

「日本は世界5番目の軍事費を有し、靖国慰安婦集団的自衛権、などの懸案事項を内包しながら中国の軍備拡大に対抗する形でさらに軍事費を増やしつつあり、航空母艦にも似た海自の護衛艦“いずも”も就航させた。日本がそうやって軍事強化路線を推し進める中で、自衛隊員は過去とは全く違う国民の熱い視線を感じている。国民の彼らを見る好意的な目は、2011年の大震災の際の彼らの働きに対する感謝の念とも関係している。


例えば尖閣に近い沖縄の宮古島レーダー基地に勤務する自衛官は、国防の最前線にいるという実感と共に身震いするような誇りを感じている。しかし、沖縄の住民は自衛官と旧日本軍を重ねて見ていて、軍隊への不安も感じている。沖縄は先の大戦で地上戦を経験した。住民はその際旧日本軍が彼らを守ってくれなかったという深い絶望と怒りからまだ回復していない。彼らは中国への恐怖と同時に自らの国の軍隊への不安も感じている」

「TIME」の記事はできる限り客観的であろうとしながら、結局安倍首相以下の日本のタカ派への警戒心を隠そうとはしません。そして最も重要なことは、その見方が国際世論の大勢であるという厳然たる事実です。僕がこの記事を書いているのもまさにそのことを指摘したいからです。現在の東アジアの情勢では日本が少しばかり右に傾くのは仕方のないことかもしれません。いや、むしろそれが当たり前でしょう。しかし、世界はそんな風には見ません。


一例を示してそれを説明します。戦後一貫して築いてきた平和愛好国家としての日本のポジティブなイメージは、2011年の東日本大震災の巨大な不幸を経てピークに達しました。世界の大半の人々は、大震災の混乱の中で見せた日本人の自己犠牲の精神や折り目正しさや正直や連帯意識に感動し、強く賞賛しました。それは日本と日本人への評価が最高潮に達した瞬間でした。ところがその賞賛のほとんどは、最近の安倍首相の従軍慰安婦発言や歴史認識問題等で吹き飛んでしまった、と言っても良いと思います。中国や韓国に限らず、軍国主義時代の日本とそれを明確に総括していない「もう一つの日本」に対する世界の多くの人々の警戒心は、少しも緩んではいないのです。日本の、特に保守系の政治家は、そのことを常に肝に銘じておくべきです。

「TIME」の記事は「軍隊にまつわる日本」への世界の心情を代表している訳ですが、同時に記事は
「驚いたことに、それでも安倍首相のタカ派的スタンスはアジアで支持もされている。例えばインドやミャンマーは中国よりも日本の方が経済パートナーとして信頼できると感じ、かつて旧日本軍の軍靴に踏みにじられたフィリピンや、インドネシア、マレーシアでは、国民の80%が日本をポジティブに見なしている」
とここでも又きちんとフォーローしています。


さらに印象深いのは、元フィリピン国立防衛大学の学長クラリータ・カルロス氏が中韓両国、特に中国がかつてに日本に侵略された歴史事実を楯にそれにこだわり続けることに対して、
「中国は過去の出来事を執拗に蒸し返して日本を攻め続けるばかりで発展性がない。それを言うならアジアの我々は皆、旧日本軍の被害を受けた。我々はそのことを忘れてはいない。だが我々は、許すこともまた知っている」
と、安倍首相を始めとする保守派の皆さんが泣いて喜びそうな意見もきちんと書き込んでいます。


それらは日本人の誰にとっても有り難いコメントだと思いますが、意見を手前味噌的にのみ捉えてはならないとも考えます。フィリピンが南沙諸島の領有権を巡って中国と対立している事実を持ち出すまでもなく、それらの国々は皆、中国と何らかの形での係争事案を抱えています。従って「敵の敵は友人」的なスタンスで日本に対している部分もある、とも考えられます。ですから我々は、彼らの好意は好意としてありがたく受け留めつつ、その好意に甘え過ぎて、日本がかつてそれらの国々にも迷惑をかけたことがある、という歴史事実を決して忘れることがないよう自戒する必要もあるのではないでしょうか。