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指導者名言録

アレキサンダー大王 


<演説>


 「私が父から受け継いだものは、わずかばかりの金銀の盃と金庫にあった60タランタ足らず、しかもピリッポスがこしらえたおよそ500タランタもの借金を背負いこんだうえ、私自身も別途800タランタの借りをつくるという、そんな状態のなかで私は、諸君が自活してゆくさえどう見ても覚束(おぼつか)ない土地から軍を起こし、ペルシア人がまだ海をおさえていたあの当時、ヘッレスポントスの渡(わたし)を手際よく一気に、諸君の前に開放してやったのだ。次いでダレイオスの太守たちを〔グラニコス河畔での〕騎兵戦で圧倒した私は、イオニア全部にアイオリスの全部と両(ふた)つの地域のプリュギア人、それにリュディア人たちの地を諸君の領土に加え、ミレトスもこれを囲んで攻略した。進んで降伏を申し出てきたその他の地方も私は、それらを手に入れると全部、諸君のものにして、諸君の用に供してやった。


 戦わずして手に入れたエジプトやキュレネから上がる資財も、諸君のものとなったし、コイレ・シリアやパレスティナや両河の間(あわい)の地〔メソポタミア〕も諸君の財産なら、バビュロンもバクトラもスサも、これまた諸君のものだ。リュディア人の富、ペルシア人の財宝それにインド人の資財、さらにはその外海(そとうみ)もまた諸君のものだ。〔これらの土地に〕太守となるのも君たちなら、将軍となるのも部隊指揮官となるのも皆、君たちなのだ。なぜといってこれらの艱難辛苦を経てきた今でさえ、王としてのこの衣裳と頭飾り(デイアデマ)のリボン以外に、この私の手許にいったい何が残っているというのか。私が自分用に得たものなど、何ひとつとしてありはしない。何処(どこ)の誰にしたところで、現に諸君の持ち物であるこれらのもの以外、あるいは諸君のためとりあえず保管されているもの以外に、私の財産なるものを、これがそうだと指摘できる者などいるわけがないのだ。そういったものを蓄えたところで、私一個のためには何の得にもならないからだ。私は君たちと同じものを食べ、夜も君たちと同じようにして眠っている。それどころか自分では、君たちのうちでも口の奢(おご)った者が食べる程のものも、口にしてはいないと思うくらいだし、夜は夜で君たちが安眠できるようにと、君たちのためを思っては目覚めがちなことも、余人は知らず、少なくともこの私には分かっているのだ。


 しかし私がそうした一切のものを獲得したについては、それは諸君ばかりが一方的に艱難辛苦、辛酸を嘗(な)めたその結果であって、この私自身は指揮をとる立場として、別にこれといった艱難辛苦も辛酸もなしに済んだのだと、あるいはそう思うものがいるかもしれない。それならば我こそは、王が自分のために力戦奮闘してくれたそれ以上に、王のため粉骨砕身した、とあえて自認できる者が、諸君のなかに果たして何人いるか。諸君のうち誰でもよい、実際にここに出てきて裸になって、自分が受けた傷痕を見せてみよ。そうすれば私は私で、自分の身体を見せようから。私について言えば身体中いたる所、少なくともこの前半身に、無傷のままの箇所などどこにも残ってはいない。白兵によるものであれ飛び道具によるものであれ、その傷痕を我が身に残していないような武器はひとつとしてない程だ。白兵戦では刀傷を受け、矢玉にも射当てられ、射出機が射ち出す弾(たま)にも撃たれ、石弾(いしだま)や棍棒で負傷したことも数えるにいとまない。それもこれもすべて諸君のため、諸君の名を挙げ諸君を豊かに富ませようとして身を挺した結果であり、私はこの間(かん)ずっと君たちを、勝ち進む征服者としてあらゆる地方、海という海、あらゆる山河あらゆる曠野(こうや)を踏破しながらひきいてきたのだ。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20131216#1387192068八幡太郎義家)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20131216#1387192088(先憂後楽)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20071226#1199092732(人生は劇だ、ドラマだ)