【ジェンヌから歯科医に(5)】生きる気力失った恩師の姿に衝撃 認知症学ぶため60歳でまた受験 - MSN産経west
−−兵庫県宝塚市で「ますたにデンタルクリニック」を開業されて20年になります
桝谷 多くは一般の患者さんですが、宝塚の生徒さんも来られます。みんな笑顔だけれど、心の奥底にはストレスや悩みをいっぱい抱えている。精神的なストレスから口が開けにくくなった人には、マウスピースを作って顎(がく)関節の緊張を和らげる治療を施します。私も舞台に立っていたからよく分かるので、休養をアドバイスしたりします。
−−さらに60歳で神戸大学大学院医学研究科で老年精神医学を学ばれました
桝谷 歯科医師の国家試験に合格したとき、お手紙をくださった中学時代の恩師と、平成16年に再会しました。かつて指導熱心で輝いていた先生の変わりようにショックを受けました。やせ細り、「どうしてこんなに長く生きてしまったのか…」と生きる気力を失い、認知症に苦しんでおられた。老齢に伴う問題を強く意識するようになり、認知症の研究に力を入れている神戸大学大学院に1年間の受験勉強の末に入学しました。
−−歯科医と大学院での研究を両立させるのは大変だったでしょう
桝谷 お昼過ぎまで診療して、夕方5時から大学で講義を受けました。週に1回は、夜の7時から認知症の研究会があります。論文のテーマを持ち込んで先生に意見を伺いながら仕上げました。
−−そして平成22年、「元タカラジェンヌは年齢を重ねても認知能力が高い」という論文を発表し注目を集めましたね
桝谷 平均年齢80歳の宝塚の卒業生と一般女性の計124人に協力して頂き、脳や認知機能について調べました。10年以上、声楽やバレエなど舞台教育に取り組んだ人は、そうでない人に比べて、認知機能が低下しにくく、うつにもなりにくいという結果が出ました。舞台教育が認知機能の低下に影響するということは、一般の方にもヒントになると思います。国際医学雑誌に掲載されると世界中からメールが来ました。
−−次の目標は?
桝谷 歯科医としての臨床を続けながら、実社会で活用してもらえるような研究をしたい、という厚かましい夢を持っています。そして、患者さんとは、なるべく歯の話だけでなく、ざっくばらんに長話できるような関係でいたいです。会話の中から、ストレスなど歯の痛みの原因が見つかることがありますから。
−−宝塚とのつながりは今もありますか
桝谷 観劇には積極的に出かけますし、先日は年に1度の宝友会(宝塚OGの同窓会)があり、20代から90代の卒業生140人ほどが集いました。故郷に戻ったような温かさと、背筋が伸びるようなパワーをいただきました。最後は全員で輪になって手をつなぎ「すみれの花咲く頃」を歌ったんですよ。来年は世紀の節目。100年、200年、と宝塚は永遠であってほしいと願っています。