米上院がイエレン次期FRB議長承認、金融政策正常化に取り組みへ | Reuters
表決は、賛成56票、反対26票。多くの野党共和党議員が反対票を投じた。
FRBはバーナンキ体制の下、2008年終盤に政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標をほぼゼロ%に引き下げ、その後も量的緩和(QE)と呼ばれる大規模な債券買い入れを3度導入し長期金利の抑制を図ってきた。
現在FRB副議長のイエレン氏は、サンフランシスコ地区連銀総裁時代から、こうした措置が雇用拡大や経済成長押し上げにつながると主張してきた。
確かに、一連の措置緩和政策の効果は表れ始めている。失業率は11月に7%と5年ぶりの水準に低下。第3・四半期の成長率はほぼ2年ぶりの高水準を記録した。
そうした状況下でFRB議長としてイエレン氏が取り組む課題は、先の金融危機やリセッションに対応した超緩和的金融政策の正常化だ。
FRBは昨年12月、QEの縮小に着手することを決めた。バーナンキ議長は、想定通り景気回復が進めば、QEが2014年終盤までに終了すると予想した。
共和党や、FOMCのタカ派からは、QE縮小に踏み切るのが遅すぎるとの批判や、QEの副作用としてインフレや資産バブルを懸念する声が出ているが、アナリストは、「イエレン議長」が、インフレがFRBの目標である2%を大幅に下回っている限り、これまで通りハト派スタンスを継続すると予想している。
民主党大統領指名のFRB議長誕生は、カーター大統領(当時)に指名され、1979年に議長に就任したボルカー氏以来。
バーンナンキ議長も、グリーンスパン前議長も、初指名は共和党の大統領(ブッシュ大統領、レーガン大統領)で、民主党の大統領に再任されている。
情報BOX:イエレン次期FRB議長の主要政策課題 | Reuters
情報BOX:イエレン次期FRB議長の「最適コントロール」モデルと金融政策 | Reuters
イエレン氏は「ハト派」と評されるが、その理由の1つが、失業率を迅速に低下させるため、インフレ率がFRBの目標である2%を一時的に上回ることを容認する「最適コントロール」モデルだ。
投資家は、この「最適コントロール」モデルが米金融政策に反映されるのか、注視していくことになる。
<最適コントロールモデルとは>
イエレン氏が政策金利の設定における「最適コントロール」モデルを初めて提唱したのは2012年6月の講演。ただ、政策のトレードオフ、この場合失業率とインフレ率、について説明する数学的モデル自体は、経済学の一般的概念だ。このモデルは物価安定と最大かつ持続可能な雇用の実現というFRBの2つの責務に沿った経済的成果を最適化する政策を策定する方法を示している。
イエレン氏が説明するように、FRBはインフレ率が目標の2%を超えることを一時的に認める場合、目標を厳格に守る場合よりも迅速な失業率の低下を実現できる可能性がある。
同氏は2012年11月の講演で金融政策について「インフレ率の目標値2%からのかい離の最小化、失業率の目標値6%からのかい離の最小化の双方を同様に重視して目指していると考える」と語った。その当時、FRBは完全雇用を維持する上で失業率6%が上限と考えていた。
イエレン氏が講演で示した「最適コントロール」モデルに基づく試算では、FRBは2016年初めまで事実上のゼロ金利を維持し、2018年までは伝統的な政策ルールが推奨するより低い水準に政策金利を維持することになる。その結果、失業率は2015年半ばまでに6.5%に低下する。当時のFRBのベースライン予想では15年半ばの失業率は7%、従来型モデルに従ってFRBがより早期に利上げを行った場合は7.5%となっていた。
<懐疑的な意見>
「最適コントロール」モデルをめぐっては、経済的成果を最適化させる可能性はあるものの、コントロール機能が欠如し、政策ミスのリスクを高めるとの懐疑的な意見もある。
ノーザン・トラスト(シカゴ)のチーフエコノミスト、カール・タネンバウム氏は「最適コントロールモデルは、それ自体のコントロールを必要とせずにコントロールができるという錯覚をもたらす」と指摘する。
失業率目標の達成のためにより高いインフレ率を容認することで、FRBは手遅れになるまで問題を認識しない可能性があると懐疑的な向きは懸念する。
さらに、FRBの一貫性を維持するにはインフレ率と失業率の目標の定義が緩やか過ぎることも問題視されている。FRBはインフレ率の目標を2%としているが、目標には「中期的に」取り組んでいる。失業率目標については、FRB当局者は5.2─5.8%となる可能性が高いと話しているが、正確な数字は知らず、いずれ変更される可能性も認めている。
タネンバウム氏は「FRBは結局、同じデータを基に幅広い措置を講じることを正当化できるようになる可能性がある」と述べた。
<賛成意見>
イエレン氏が正しい方向に向かっていると考えるエコノミストは、現在のようにインフレ率が目標を下回る場合にFRBが直面する問題を説明するための「常識的な」方法として、「最適コントロール」モデルを捉えることを好む。
政策ミスのリスクは諸刃の剣だ。時期尚早な政策引き締めは、数百万人規模でないにしろ数十万人の米国民の失業期間が、引き締め判断がなかった場合よりも長引くことを意味する。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のジェームズ・ハミルトン経済学教授は「政策判断は国民の生活に対して、もっと言えば、われわれが国家として成し遂げられることに対して永続的な影響をもたらす可能性があることを認識する必要がある」と述べる。
<FRBの現行の対応>
イエレン氏は、「最適コントロール」モデルは有用な指標ではあるものの新たにとって代わる手法でないとし、「金融政策をコンピューターに任せることを推奨していない」とも述べている。
ただ、FRBは「最適コンロトール」の考えにかなり沿った措置を講じている。
FRBは、長期にわたり低金利を維持すると市場に確信させるため、インフレ見通しが2.5%を下回って推移するかぎり、失業率が少なくとも6.5%に低下するまで利上げしないと公約してきた。
昨年12月、その公約を修正し、予測されるインフレ率が2%の長期的な目標より低くとどまるようなら、失業率が6.5%を下回っても「相当の期間(well past the time)」超低金利を維持するのが適切、とした。
11月の失業率は7.0%だった。
情報BOX:米FRB議長に就任するイエレン氏の横顔 | Reuters
◎イエレン氏(67)はFRB初の女性議長、主要国で数少ない女性の中央銀行トップとなる。
◎イエレン氏は、インフレ高進のリスクを踏まえても失業率を引き下げる戦略を好ましいと考えており、金融政策のハト派とみられている。同氏は1995年、「(FRBの)目標が相反して過酷なトレードオフが求められる事態になった場合、私にとって賢明で人道にかなう政策は、インフレが目標水準を上回って推移している局面でさえ、時にはインフレ率の上昇を容認することだ」と発言している。
◎金融・経済政策に関する経験は豊富。FRBの副議長に就任する前の2004年から10年まではサンフランシスコ地区連銀の総裁、1994年から97年まではFRB理事を務めた。97年から99年にクリントン政権下で経済諮問委員会(CEA)委員長。
◎著名な経済学者。エール大学で博士号を取得、カリフォルニア大学バークレー校やハーバード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで教鞭を執った。シングルマザー、最適な金融政策、賃金と物価の硬直性、貿易といったさまざまなトピックに関する研究を発表している。
◎夫はノーベル賞を受賞した経済学者のジョージ・アカロフ氏。イエレン氏とアカロフ氏はともにFRBのエコノミストだった1977年に知り合い、翌年の6月に結婚。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで教鞭を執るためFRBを離れた。夫婦で多数の論文を共著している。夫妻の唯一の子は現在、大学で経済学の教授となっており、13歳になるまでに経済学を志したという。
「ガラスの天井」突破したイエレン氏、金融界幹部の女性起用広がるか | Reuters
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20140106#1389006527