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投資家  Rogers Holdings 会長 Jim Rogers(ジム・ロジャース) 氏 | 専門家の声 | 海外教育情報サイトSPRING(シンガポール)

 私たち一家は、2007年にシンガポールに移住しました。かつて2度にわたる世界一周旅行を経験し、家族で移住する際に理想的な国はどこかと考えた際、真っ先に浮かんだのがシンガポールでした。その理由は「抜群の教育環境」にあります。私には5歳、10歳の娘がいます。娘たちの将来を見据え、一番身につけていて欲しいことは「中国語を習得すること」そして「アジアを深く知っていること」だと考えました。シンガポールは、英語と中国語を同時に学べる理想的な環境にあり、国際的な学力調査でもその教育水準の高さが証明されています。公害もなくインフラも整備されているなど優れた生活環境や充実した医療制度があります。


 現在、長女は シンガポールのローカルスクールに通っています。学校で青い目と金髪なのは一人だけで、特異な存在であることは間違いありません。 そんな娘が、500人が参加した中国語スピーチコンテストで一位になりました。中国語を話す家系も多いシンガポールにおいて、西洋人が一位になるというのは、歴代初めてのことでした。生まれたときから中国語に触れ、ベビーシッターには中国語しか話さないでもらうという徹底した教育環境で育った彼女は、今や英語と中国語の完全バイリンガルなのです。次女もまた中国語の発音は長女以上に優れていると言われています。二人とも、私が理想とする「中国語を話せること」を確実に成し遂げているのです。

 私がなぜ、娘たちの中国語教育にそこまで注力しているかと言うと、21世紀は間違いなく「中国の時代」だからです。 20世紀は「米国の時代」と言えましたが、米国はもはや最大の債務国になっています。過去50年で最も成功した国であった日本も、現在は少子高齢化にあえぎ、今後ますます財政が厳しくなるでしょう。そんな中、中国の人口は13億人を超え、貧富の差はあり成長は緩やかになったものの、それぞれの層がより豊かになりつつあります。2010年以降、名目GDPは日本を抜き世界第2位となっています。


 中国語の必要性を唱えると、「ビジネス界で活躍する高学歴の中国人であれば英語を話せるではないか」という意見も聞こえてきます。しかし13億人の中国人のうちそのような人は未だごく一部ですし、英語に訳されない重要な情報も中国語で入手が可能になります。また、私が娘たちに求める中国語は母国語レベルのものです。どの言語でもいえることですが、言葉にはそれぐらい高いレベルでないと知り得ない意味が存在するものです。それを理解するためには、環境から自然に身につけるだけでは足りず、やはり「言語」として自ら学ぶことが大切でしょう。そうして培った力は、ビジネスで必ず優位に働きます。

 「成功をつかみ、より豊かな人生を過ごして欲しい」というのは、親が子どもに抱く共通の願いではないでしょうか。私が自分の娘たち、そして今の子ども世代に伝えたいのは、「歴史」と「哲学」を学び、自分の人生に活かして欲しいということです。


 「歴史」は、ただ時系列に学ぶのではなく、少なくとも3種類の見方を通じて、その史実を客観的に分析する力を身につけるべきだと思います。それを通じて、大きな視点で世界の変化をとらえることができるからです。「哲学」は自分自身で考える力を与えてくれます。物事の真の姿を見極めるためには、自分で深く考える力が必要です。その力は「哲学」を学ぶことで確実に得られると考えます。これらは投資をする際にもとても重要ですし、我々を取り巻くいかなる事象を把握する際にも非常に有益なアプローチです。

 親世代が理解しなければならないことは、「世界はつねに変化している」ということです。たとえば、世界大恐慌直後の1930年、第二次世界大戦終結した1945年、ベトナム戦争が勃発し、日本の高度経済成長期が始まる1960年の世界を思い浮かべてください。それぞれの時代により異なる思想に支配されていたことがわかるでしょう。 仮に親世代が1970年代生まれだとしたら、子どもたちが親と同じ年頃になる2040年代には、彼らをとりまく世界と価値観は必ず変容しているはずです。その変化を具体的に想像し、それに備えて知識や経験を蓄えていく必要があるでしょう。


かつて世界6大陸116 ヵ国を旅した中で、地元の人々と関わって得た知見は、「どんな状況であっても人間は与えられた環境で生きていく柔軟性をもっている」ということでした。農地が砂漠化すれば、人々はその地で別の生き方を選択するか、居を移して生きていくなど、私たち人間は、刻々と「変化」する世界に適応できるたくましさを備えているのです。

 私は今までに何度も日本を訪れ、日本という国がとても好きです。素晴らしい国をもつ日本人の皆さんには 「日本の外の見聞を広げ世界と繋がること」が、今まで以上に求められていると思います。私の目から見ると、日本も日本の教育システムも未だ鎖国状態であり、外の世界からほど遠いと感じます。自国のアイデンティティーの確立に注力することは大切ですが、これからの日本を担う子ども世代には、非日本人と分け隔てなくつきあえる感覚を身につけることが、優先課題ではないでしょうか。


 我が家では、娘たちが米ドル、ユーロ、日本円など6種類の貯金箱を持っています。娘自らその貯金箱を銀行へ持ち込み、中国語で窓口担当者とやりとりをしています。 これは幼い頃から世界にはさまざまな通貨が存在するということを肌で感じさせ、それが世界を知る第一歩になると考えているからです。

 かつての私は、子育て中の友人に対して「時間とエネルギーの無駄遣いをして気の毒だ」と、憐れみさえ感じていました。でも、私の考えは全くの誤りでした。2人の娘たちを授かってから、幸福感は高まり、人生の喜びを感じ、涙する機会は圧倒的に増えました。この子育ての喜びの本質に、日本の若い人の多くが気づいてくれることを願っています。


 我々の大切な子どもたちの将来は、安泰とは言い難いかもしれません。歴史をひもとけば、戦争がなかった時代がいかに少ないか驚くことになりますし、米国が再び戦争に関わる可能性も否定できません。娘たちには戦争をしている国には留まらず、平和な他の国で生活してほしいと思っています。戦争を遂行している国家はどんな国であろうと自らを正当化するものです。日本の子どもたちには、日本以外で生きる可能性に備え、英語だけでなく「中国語も学ぶ」ことを力説したいと思います。米国人の娘においても日本人の子どもにおいても、国という概念を超えた「世界市民」になる感覚が、求められているからです。

子どもたちには、10代のうちにアルバイトなど、何らかの仕事を経験してほしいと思います。 仕事場のボスは何でも受容してくれる親とは違いますから、厳しさを知る良い機会になるに違いありません。20代半ばまで勉強ばかりで全く仕事の経験がないよりは、10代のうちから世の中のしくみに触れておくことはとても有意義だと思います。


 私自身、投資で損をしたこともあります。しかし、どんな失敗もこの世の終わりではないことを知っておくべきで す。失敗からは多くのことを学べます。失敗するのなら、50代よりも20代のように若いうちがいいでしょう。若け れば、貴重な学びの機会をより活用できるからです。


 今までに、素晴らしい学歴の持ち主や頭脳明晰と言われる人に出会ってきましたが、彼らは必ずしもビジネスや人 生において成功者ではありませんでした。つまり教育そのものが成功の唯一の鍵とは言えないのです。失敗しても「耐え忍ぶ力」と「諦めず継続する力」の方が、最終的には人生において重要です。まだ幼い娘たちがどれほど理解しているかわかりませんが、私が娘たちに好んで読む古書の一節にこうあります。 「If at first you don’t succeed, try, try again.(はじめ成功しなくても、挑戦し続けよ。)」 McGuffey’ s Fourth Electic Readerより。