安倍首相がダボスで「日中関係は第一次世界大戦勃発直前の英独緊張感(戦争になった)と似ている」と語る。この方、もうダメだ。 gataro
外務官僚に「訂正」なんかさせる能力はないよ。それにそもそも本音を書かれちゃったんで本音は「訂正」できない。
だから、わたしが前から言っているだろう。欧米メディアは日本の御用マスゴミと違って本当のジャーナリストなんだから、安倍もついてる外務官僚もこれにうまく対応する語学力も知的能力もないって。
基調講演そのものは入念な事前準備のお陰で無難に乗り切ったって、質疑応答をやれば、たとえ外務官僚の通訳がついていたって、すぐに本音を言わされてそれを報じられてしまう。
自分が思っていることや実際やっていることとはまったく裏腹の美辞麗句を並べておけばそれをそのまま好意的に報じてくれる大本営発表マスゴミとは違うんだって。とにかく何か言っておけば反論だとか、とにかく行って英語でしゃべってくれば成功だなんていうレベルじゃないんだよ。本音が探られて報じられてしまうんだよ。
言うに事欠いて日中関係を第一次大戦直前の英独関係に例えるなんてあり得ないよ。
経済関係が密接な二国間関係で対立しながらも開戦に至らなかったものなんか歴史上たくさんあるのに、よりによって実際開戦しちゃった英独関係に、それも開戦100年目で、英独対立から開戦に至った第一次大戦の歴史的意味の深刻さが改めてふりかえられているヨーロッパでこのイメージを持ち出すなんて、本音がそれをわざわざ選んでいるからで、それを今回は暴き出されて報じられてしまったというわけだ。
すでに欧米メディアでは、安倍が美辞麗句を重ねるだけで言行不一致だと広く認識されている。だからあらゆる機会に靖国参拝の同じ質問が繰り返されるし(基調演説後の質疑においてさえSchwabが真っ先にこれを持ち出した)、その美辞麗句の紋切り型の答えが、''disturbing''であるとさえ、Financial TimesのChief Economistに言われている(>>15参照)。欧米メディアはすでに美辞麗句の裏の本音を狙っていたわけだ。
美辞麗句を重ねたって本音はどこかに出てしまうもので、誰が見たって日中関係を第一次大戦直前の英独関係にわざわざ例えたことに安倍の本音が出ちゃってる。外務省を含めた政府部内では実際そういう認識でこの例えを持ち出しながら外交・軍事政策を議論していることが見透かされているぞ。
日本が英国でシーパワー、中国がドイツでランドパワー、ランドパワー中国の海洋進出をシーパワー日本が大陸に封じ込めようとしているとの地政学的認識だからこそ、ASEANを始めとする大陸周辺(リムランド)や中国の背後地域さらには中国が力を入れているアフリカへの「積極的な外交攻勢」をおこなっているんだろう。違うか。
この対立はランドパワーがその海洋進出の野望を捨てなければ開戦に至るが、シーパワーとしてはそれも辞さない。何故なら、その場合には結局シーパワーが勝つからだ。だからそれに備えて国内では戦争が出来る体制作りに努めなければならない。そんな安倍自民党の美辞麗句の影に隠れた本音がみんなこの「日中関係は第一次大戦直前の英独関係と同じ」に現れていて、それをBBCとFiancial Timesが見逃さなかったということだ。
さらに、この英独関係の例えにBBCとFinancial Timesのような英国メディアが反応したことにも注目だ。
実際第一次大戦直前のヨーロッパでシーパワーとして(パクス・ブリタニカだったからな)ランドパワードイツの海洋進出を封じ込めようとしていたのは英国だったわけだから、その例えの当事者としての「感想」がそこにあるのは明らかだ。
その「感想」とは、「なにをこいつは思い上がっているんだ]ということだ。
第二次大戦後の日本は東アジアにおける地域覇権的なシーパワーから滑り落ちていまや世界の覇権的シーパワーとなったアメリカ(パクス・アメリカーナだからな)の属国になっているわけだから、そんなアメリカの属国が自分を未だに東アジアの覇権的シーパワーだと自負して東アジア地政学ゲームにおける「英国の役割」を自認して演じようとしているのは、英国人にとっては腹立たしいことだろう。英国人が第一次大戦までの英国のシーパワーとしての栄光の歴史に強い愛着を持つ故に、また、英国自体が第二次大戦によってその栄光の支配的シーパワーの地位から滑り落ちて今やアメリカの影の中にあるという事実へのいらだちもあって、この「反感」はより感情的なものとなっているだろう。
実際、東アジアにおける支配的シーパワーはアメリカであって日本ではないのだから、安倍自民党がシーパワーを気取って中国の封じ込めに奔走するのは滑稽だ。
中国の挑戦が向かう本当の相手はアメリカであるが、そのアメリカは安倍自民党政府が考えているようなそんな単純な中国との対決を望んでいない。英国と違ってアメリカには「大陸」に死活的な安全保障上の関心がない。北米のランドパワーでもあるアメリカの死活的安全保障圏は本来南北アメリカ大陸を中心とし大西洋と太平洋の半分のいわゆる「西半球」だ。第二次大戦後の状況はこれが世界大に拡大してしまっただけで、いずれこの「拡大」を整理しなければならない時期が来ると覚悟しているはずだし、そういう勢力が台頭する可能性は常にある(この意味で本来孤立主義的な共和党の伝統的本流が共和党の支配をティーパーティのような右翼から奪い返そうとしているのは注目される)。アメリカの望みはその「整理」を平和裏になおかつ第二次大戦後の国際体制の枠の中で行うことで、その線での対中外交を賢明に進めているし、中国もそれを理解して応えている。
だから、安倍の覇権的シーパワーを気取った(すでに安倍の頭の中で日本は戦前復帰で覇権的シーパワーの地位に返り咲いているのかもしれないが)中国封じ込め外交や対中戦のための日本の軍事化は余計なことでまったく歓迎されていないどころか、むしろそれは第二次大戦後のサンフランシスコ体制への挑戦であるとして警戒視すらされている。安倍自民党の「地政学ゲームひとり遊び」はアメリカに嫌われているのだ。
安倍がワシントンでどんな扱いを受けたかまた安倍の靖国参拝に対してアメリカがどんな反応をしたか、欧米メディアにはみんなお見透しなわけだから、安倍のシーパワーを気取った地政学的ゲームの滑稽さもよく見えているはずだ。だから、今回のBBCとFinancial Timesの報道にそのような安倍の滑稽さへの蔑みがあることも確かだ。それは安倍のいかにも必死で練習しましたという拙い基調演説への蔑みとも共鳴したことだろう。
というわけで、とにかく英語で演説してくれば「快挙だ」、「成功だ」などというレベルの話ではまったくないわけだ。
安倍はまさにダボスへ墓穴を掘りに行ったということとなった。それも非常に大きく深い墓穴だ。
安倍自民党、官僚利権政府、右翼保守の戦後民主主義の否定と戦前ファシズム体制への復帰策動に強く反対するリベラルなわたしとしては大きな声で言いたい。
「ざまあ見ろ。」
ランドパワー - Wikipedia
シーパワー - Wikipedia
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