露、中東で多角外交 エジプトと外務・防衛閣僚会議 米に対抗 - MSN産経ニュース
ロシアとエジプトによる2度目の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)が13日、モスクワで行われ、双方は軍事分野での関係を強化することで一致した。エジプト暫定政権の最高実力者で軍トップのシーシー陸軍元帥が昨年7月の軍クーデター以降で初めて外国訪問し、協議に出席した。中東地域で米国の影響力が低下しているのに乗じ、ロシアはエジプトを含む中東諸国と広く友好関係を築く多角外交に力を入れている。
ロシアと、米国と同盟関係にあるエジプトの「2プラス2」は昨年11月に続き2度目。ラブロフ露外相は協議後の記者会見で「両国の軍事技術協力に弾みをつける諸文書の作成を急ぐことで合意した」と述べた。双方は貿易・経済関係の強化に向けた政府間委員会を3月末に開催することを決めたほか、シリア問題についても協議した。
エジプト側のシーシー氏とファハミ外相は13日、プーチン露大統領とも会談。
両国の軍事協力をめぐっては、ロシアが最新型の防空システムやミグ戦闘機をエジプトに売却する20億ドル(約2039億円)規模の取引が準備されていると報じられてきた。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が、この武器購入のために借款を供与するとの報道もある。
エジプトは米国から年13億ドル(約1326億円)の軍事支援を受けてきたが、オバマ米政権は昨年夏のクーデターとその後の衝突を受けて援助の一部を凍結した。両国関係の冷え込んだ機をとらえ、ロシアが軍事協力を軸にエジプトへの接近に乗り出した形だ。
エジプト側にも、武器調達先の軸足は米国に置きつつ、軍事・外交関係の幅を広げることにより、米国に対する立場を強めようとする思惑がある。
2003年のイラク戦争や11年以降の「アラブの春」に続く中東情勢の混迷を受け、ロシアは、この地域における秩序形成に果たす米国の役割が大きく減じたと見ている。シリアやイランといった友好国との関係を強固に保っておくのはもちろん、中東諸国との多角的な関係構築によって存在感を高め、国際的な発言力の向上につなげるのがロシアの戦略だ。
Russia's Putin says supports Sisi's bid for Egypt presidency | Reuters
Egypt Military Chief Meets Putin, Portending Closer Ties With Russia | The Moscow Times
【ムバラク政権崩壊3年】エジプト、軍中心に回帰 革命、民主化につながらず - MSN産経ニュース
イスラム系政権の誕生とクーデターを経て、現在では多くの国民が軍中心体制への回帰を支持する同国の状況は、「革命」という言葉の持つ“進歩的”なイメージでは捉えきれない複雑さをはらんでいる。
「シーシーと軍が国を導いてくれる」。多くの市民はこう語り、今春の大統領選へのシーシー氏の出馬を熱望する。3年前、同じく軍人出身のムバラク大統領(当時)に退陣を迫った大規模な反政府デモを裏返したような熱狂ぶりだ。
「ムバラク後」の軍暫定統治下で民主的な手続きが導入されたエジプトでは、解体された旧与党以外でほぼ唯一、高い動員力があったイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が躍進。12年6月には、同国で初めてといわれる公正な大統領選で、僅差ながらも同胞団出身のモルシー氏が勝利した。原動力となったのは、同胞団が慈善活動などを通じて浸透を図ってきた低所得者層の支持だった。
しかしこの選挙が「政権選択」のみならず、「体制選択」の意味合いをも持ったことで、エジプト政治には大きなしこりが残った。
同胞団は究極的にはシャリーア(イスラム法)による統治を志向しており、従来の世俗的な体制の維持を望む軍や、軍と結びついた旧政権関係者、財界などの既得権益層とは相いれない。国家像をめぐる国民的な議論は未成熟なままだった。
そんな中でモルシー氏が自身に独裁的ともいえる強権を付与し、イスラム色の強い新憲法の制定を進めたことは、社会・経済になおも大きな影響力を持つ既得権益層に強い危機感を与えた。その一翼を担う主流メディアは大々的な「反同胞団」キャンペーンを展開し、それが13年6月の大規模デモとその後のクーデターへとつながった。
そしていま、クーデター後の体制の中心人物であるシーシー氏を熱狂的に支持する国民の多くは、かつて反ムバラク政権デモに参加し、同胞団やモルシー氏を支持した低所得者層だ。
クーデター後、記者(大内)は多くの同胞団メンバーから、「エジプト人はばかだ」などと国民を非難する声を聞いた。非識字率が4割を超すとされる同国の、したたかで移ろいやすい世論への“恨み節”だといえるが、同胞団もまた、物品を配るなどして低所得者層の歓心を買おうとしてきたことも確かだ。
露骨な利益供与や世論操作で大衆の支持を奪い合うのが「ムバラク後」の権力闘争の現実であり、その軍配は既得権益層に上がりつつある。
11年1月のチュニジアの政変に端を発した「アラブの春」では、米欧を中心に、西洋型の世俗的な体制での民主化拡大を期待する声が強まった。しかし、実際に各国で台頭したのは、草の根の慈善活動を展開してきた同胞団系など政治的イスラム勢力だった。
こうした「イスラムの春」ともいえる現象は、サウジアラビアなど君主制の湾岸アラブ諸国には脅威と映った。
域内各地に広がるイスラム勢力のネットワークが、湾岸にも「革命の輸出」を図りかねないと懸念されたためだ。
サウジは昨年、クーデターで同胞団が排除された直後のエジプトに巨額の支援を実施。今月初めには、国内外で「過激な宗教イデオロギー組織」に属する国民を厳罰に処するとの法令を発布し、同胞団などイスラム勢力の広がりに警戒心をあらわにしている。
【ムバラク政権崩壊3年】シーシー氏 演説上手、女性に人気 - MSN産経ニュース
モルシー政権を排除した昨年7月のクーデター後には、国民に向けて直接、暫定政権支持のデモを呼びかける異例の演説を行い、動員数でモルシー派のデモを圧倒。その手法は、1952年のクーデターで王政を打倒し、自らのカリスマ性で大衆動員体制を作り上げたナセル元大統領との類似性も指摘される。
【ムバラク政権崩壊3年】米、不安定化恐れ 正統性問えず - MSN産経ニュース
ムバラク政権崩壊から3年がたつ中、エジプトに対するオバマ米大統領の姿勢が定まらない。オバマ政権は、モルシー前大統領支持派への弾圧を強める暫定政権に民主的な政権への移行を強く要求。その一方で、軍のクーデターで発足した暫定政権の正統性については不問に付している。民主化支援だけでなく、地域の安定にも重点を置いているためだ。
ケリー国務長官は1月18日、エジプトの国民投票で改憲が支持された後の声明で「民主主義を確かにするのは一度の投票ではなく、その後の行動だ」と強調。暫定政権がモルシー派の中核であるムスリム同胞団への弾圧を強めていることなどに懸念を示した。
しかしオバマ政権は昨年7月のクーデターでは事態を見守る態度に終始した。暫定政権とモルシー支持派との衝突で千人近くが死亡した後になってようやくエジプトへの軍事支援の一部凍結を決めたが、同時に暫定政権との連携も確認するなど暫定政権の正統性を否定するには至っていない。
米国が暫定政権に強い態度を取らない背景には、中東情勢の不安定さがある。「アラブの春」では民主化支援を打ち出したオバマ政権だったが、内戦が泥沼化するシリアや米軍が全面撤退したイラクでは、イスラム系武装組織が活動を活発化させ、「米国本土にとっても潜在的な脅威」(クラッパー米国家情報長官)との見方が強まっている。
オバマ政権にすれば、これまで地域大国として中東の安定に貢献してきたエジプトまでも混乱し続ける事態は何とか避けたい。暫定政権が国内の治安を維持できるのであれば、過去の経緯に目をつぶってでも、選挙などを通じた今後の民主的政権移行に期待するほかないのが現状とみられる。