東欧を制する者が世界を制す 〜ウクライナを取り巻く地政学環境〜
ハルフォード・マッキンダー(1861-1947)は現代地政学の事実上の開祖ですが、彼は「東欧を制する者が世界を制す」という箴言を残しています。
まず、マッキンダーは全大陸の3分の2を占めるユーラシア大陸を「世界島(World Island)」と名付けました。
この世界島から見ると、ヨーロッパは「半島」であり、ヨーロッパの歴史は、このヨーロッパ半島よりも内側からやって来る脅威にさらされてきました。実際、この地域の付け根(東欧)が政治的に不安定になると、ヨーロッパ半島全域も影響を受けてきたのです。モンゴルの騎馬民族も内陸から東欧をたどってヨーロッパ半島を脅かしました。
こうしたことから、ヨーロッパ半島の付け根(東欧)から内陸にかけての地域が、ヨーロッパにとって死活的な地域なのだとマッキンダーは考え、東欧より内陸を「中軸地帯(Pivot Area)」と名付けました。中軸地帯というアイデアは、後に「ハートランド(Heartland)」 という語に改められます。「東欧を制する者がハートランドを支配し、ハートランドを制する者が世界島を支配し、世界島を制する者が世界を支配する」という広く知られたフレーズには、東欧を含めたハートランドの重要性が込められているのです。アレキサンダー大王もナポレオンも、そしてヒトラーもハートランドを掌握することを目指しました。
そして、マッキンダーの理論を継承したのが、ニコラス・スパイクマン(1893-1943)です。彼は、ハートランドの周縁地帯でシーパワーの影響が及んでいる地域、すなわちランドパワーとシーパワーの接触している地域を「リムランド(Rimland)」と呼称し、世界島からの脅威を防ぐためにリムランド地帯の国々を取り込み、世界島のランドパワーを閉じ込めてしまえ!と主張したのです。
ウクライナの位置する場所は、まさにこのリムランドです。ハートランドに位置する現在のロシアから見て、リムランドであるウクライナ、とりわけクリミア半島の帰趨が、地政学的にもいかに抜き差しならない問題なのが見て取れると思います。
ロシアは、ウクライナを制して世界を制しようなんて目論見から介入しているわけではありません。とはいえ、ロシアの立場になって考えれば、数世紀もの年月をかけてクリミア半島で築き上げたものを手放すことに抵抗があるのは無理もない気がします。特に、ウクライナ領内にあるセバストーポリですが、ロシアが租借権料を払って黒海艦隊の母港として使っています。キエフの帰趨はさておき、ロシアが地政学的要衝であるクリミアだけはしっかりコントロールしておきたいのは理解できるところです。