内戦勃発になりかねないウクライナ危機の本質 佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官) - MSN産経ニュース
ウクライナをめぐりロシアは露骨な帝国主義政策をとっている。ロシア国籍を持つ者の保護を口実に事実上、ウクライナ南部クリミア自治共和国で軍隊を展開しているが、これは明白な主権侵害だ。G7(日米英仏独伊加)首脳は、「ロシア連邦によるウクライナの主権と領土の一体性に対する明確な違反を共に非難する」という声明を発表したが、当然のことだ。
今回、ロシアはこの論理に従ってクリミアを保護国化しようとしている。ロシアのこの行動は、国際秩序を著しく不安定化させる引き金となりかねないので、断じて認められない。
ウクライナ情勢が悪化した直接的な原因は、ヤヌコビッチ前政権の腐敗が著しく、それに対する異議申し立て運動を同政権が力によって封じ込めようとしたからだ。ただし、ヤヌコビッチ・グループを打倒し、首都キエフで権力を奪取した現政権も自由、民主主義、市場経済という欧米、日本が共有する基本的価値観を共有する勢力ではない。
特に西ウクライナのガリツィア地方に基盤を持つ排外主義的なウクライナ民族至上主義者の危険性を欧米諸国は過小評価している。ガリツィアは1945年まで帝政ロシア、ソ連の版図に含まれていなかった。宗教も、儀式は正教と似ているが、ローマ教皇に帰属するカトリック教会(ユニエイト教会)が主流だ。
この地域では、1950年代半ばまで反ソ武装闘争が行われていた。その後もソ連の支配を潔しとしない人々が海外に逃れた。亡命先として最も大きなコミュニティーがあるのはカナダで、約120万人のウクライナ系コミュニティーがある。カナダで英語、フランス語に次ぎ話されている言語はウクライナ語だ。1980年代末、ゴルバチョフのペレストロイカ(改革)政策でソ連人の外国人との接触条件が緩和されると、カナダのウクライナ人はガリツィアの親族、知人が展開するウクライナ独立運動を、資金的、政治的に支援し、現在に至っている。
これに対し東部、南部に居住する人々は、日常的にロシア語を話し、正教を信じている。民族意識についても自分がウクライナ人なのかロシア人なのか詰めて考えていない。大多数の間でこの曖昧な態度が続いていることが、ウクライナという国の安定の鍵になる。
東部、南部に住むウクライナ人は、ガリツィア地方のウクライナ民族至上主義者の行動を苦々しく思っている。しかし、西部の人々を含め同胞のウクライナ人だと考えているので、ウクライナの分裂は望んでいない。キエフの中央政府への反発からロシアとの関係強化を訴えるウクライナ人は、東部、南部に少なからずいるが、これら地域をロシアに併合することを考えている勢力はごく一部だ。
この状況をロシアが読み誤りウクライナに軍事介入し、ロシア軍とウクライナ軍が戦闘状態になると、これまでロシア寄りだったウクライナ人の民族意識が刺激され、反露に転じる可能性がある。さらにイスラーム系のクリミア・タタール人も抵抗を始めれば、ウクライナで内戦が勃発しかねない。
× ロシア
○ アメリカ
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