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ウクライナ問題と国際社会

プラグマティックな政治家と呼ばれるプーチン大統領が、これらのデメリットを考慮せずに対外行動を選択したとは考えにくく、国際批判を浴びてでも得たいものがあったと考えるべきだろう。

このロシアの対外行動にいち早く対応した1人が、国内外で外交手腕が高く評価されているトルコのダウトオール外相であった。

それは帝政ロシアの南下政策と向き合ったオスマン帝国時代の歴史に学んだものだといえる。

1979年のソ連アフガニスタン侵攻は、共産勢力とイスラム勢力の間でアフガンの体制が揺れる中、共産党勢力のカルマル政権の要請により実施された。今回の介入と同様、ソ連は「要請」に基づいていることを正当性の根拠とした。


しかし、二つの介入には異なる点がある。例えば、軍事的行動を行っているのは「国籍不明の自衛部隊」だとされている点、クリミア議会や住人投票という民主的手続きを用いている点などが挙げられる。また、国際社会も、介入を政治分野の問題に限定し、できるだけスポーツや経済など他の分野にまで対立を広げないよう努めている点もアフガン侵攻時とは異なる。


その背景には冷戦が終焉したことと、それに伴う経済制度の共通化などにより各国間の相互依存度が高まっていることがある。

国際社会が抱える難問の一つに「未承認国家」への対応がある。この問題は、今回のウクライナでも見られるように「領土保全」と「民族自決権」という二つの国際原則が絡む場合は現国境の保持(領土保全)が優先されてきたことが要因となっている。


この暗黙の了解を変えたのが、EUと米国による2008年2月のセルビア共和国からのコソヴォ独立の承認である。当時ロシアはこれに強く反発した。


2008年8月、立場が逆転した出来事が起きた。ロシアが、アブハジア自治共和国南オセチア自治共和国グルジアからの独立を支援したのである。それは冷戦の再開を想起させた。


今後、ウクライナ問題でクリミア自治共和国に続き、親ロシア住民地域で独立やロシアへの帰属が表明される蓋然性は高まっている。しかし、ソ連のアフガン侵攻時に国家安全保障問題担当大統領補佐官だったブレジンスキー(米国の政治学者)が、西側陣営の一体化を説くために用いた「ドミノ理論」におけるロシア脅威論が巻き起こる事態にはならないのではないだろうか。


国際社会は、冷戦終焉後、アメリカの一国主義外交期を経て多極化外交期に入っている。今回、EU首脳会議でのロシアへの対応が、穏健路線と強硬路線とに割れたこともそれを裏付けている。つまり、国際秩序づくりが難しい時代に入っているといえるだろう。


プーチン大統領は、外交戦術として、そこを衝いてきているといえる。 では、今後、ウクライナ問題はどうなるのだろうか。

トルコのダウトオール外相の敏速なキエフ訪問は、必然性の高いものだったといえる。それは、(1)ボスポラス海峡を有するトルコがロシアの黒海艦隊の展開に大きな影響力を持っている点、(2)クリミアのタタール人の保護の問題、(3)クルド民族の未承認国家問題などトルコ自身の関心事項が多いことが理由である。


また、国際環境の面から見ても、オバマ政権がアラブ諸国で見られた政変(通称「アラブの春」)、シリア内戦、イラン核問題などの政策で失敗し、米国の国際的信用が失墜しているという状況にある。つまり、欧米との調整よりもまず自身の判断でこの問題に対応する必要性がある。


一方、ロシアは1990年代後半から中国、インドとの連携を強め、2003年5月の中ロ首脳会談の共同声明で米国の一国主義的な外交を批判し、反米的姿勢を強めてきた。そして、シリア問題で見られたように、中国が国連安保理でロシアとの協調姿勢をとることで国連のもとでの国際秩序づくりが難しくなっている。


こうした状況下、トルコの政権の担い手は、国益、市民からの民主化・自由化圧力を睨みつつ、どのように国際協調を行っていくか難しい選択に迫られている。これは、他の中東諸国も同様である。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20140308#1394275005