焦点:経常黒字の大幅減少が示す供給力の減退、数年内に赤字転落の声も | Reuters
2013年度の経常黒字が過去最少の7899億円にとどまったことは、足元で起きている大きな構造変化の現実を示した可能性がある。それは国内における供給力の減退だ。
この先、景気拡大が目立つ局面では貿易赤字が拡大し、海外投資からの所得還流も伸び悩み傾向が定着すれば、数年内に経常赤字に転落するリスクを指摘する声も浮上している。このことは、日本の長期金利の先行きにも暗い影を投げかけている。
こうした認識が広がったきっかけは、皮肉にも2013年度に景気が急速に拡大したことだった。
アベノミクス効果もあって消費や公共投資を中心に景気が拡大し、企業活動も活発化。その結果、成長率は高まったにもかかわらず、その需要を国内で賄いきれず、多くを輸入に頼った。
その反射的な効果や円安も加わって、国際収支統計上の輸入額は80兆円に膨らみ、統計開始以来最大となった。しかし、輸出は69兆円にとどまり、ピークだった07年度から15%減少している。
そこで頼みの綱とされているのが、海外投資からの所得還流を示す所得収支の黒字だ。毎年確実に増え続け、年間10兆円以上をたたき出しているが、ここ数年伸び悩みが目立つ。13年度は円安が40%進行したが、前年比13%の増加にとどまっている。
第一生命経済研究所・首席エコノミスト・熊野英生氏は「経済成長率は上昇したが、潜在成長率は必ずしも上昇しなかった可能性がある」と分析する。そのことが、思いのほか早く需給ギャップを縮小させ、対外収支を赤字化させたとみている。つまり経済が「老化」して潜在成長率の上昇が鈍くなったともいえる。
こうした成長の限界は、企業が生産能力を落としてきたことが一つの背景だ。生産能力指数は2010年を100として今年2月に96まで低下している。
もう1つは労働力人口の減少だ。思いのほか早く労働需給が完全雇用に接近してしまい、3月日銀短観では製造業でさえ人手不足状態となっている。
また、足元ではアジア経済が伸び悩み、その分野で海外投資の残高が伸び悩んでいるほか、国内経済の限界を意識し、海外での再投資を念頭に海外での収益を国内に還流させない動きも出てきており、こうした点が所得収支の黒字拡大基調を妨げている。
経常赤字自体は先進主要国の中で米国や英国、フランスなどで見られ、海外マネーの流入に依存すること自体は特段の問題にならない。
しかし、日本で経常赤字が常態化したとき、他国と異なるリスクがあるとすれば、あまりに巨額な財政赤字の規模と、財政再建への取り組み姿勢の印象だろう。実は先進国中で財政赤字比率(対GDP比率)が最も高い日本が、財政再建のスピード目標に関し、最もテンポが遅い。
すでに公的債務残高と家計の金融純資産(住宅ローンを除く)は、その残高が接近しており、国内での国債の消化余力は小さくなっている。