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新大統領は“チョコレート王”ポロシェンコ ウクライナに希望をもたらす救世主となれるか?――ジャーナリスト・仲野博文|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン

キエフ市内でベンチャー企業の広報として働くテトヤナ・オリニックさん。ユーロマイダン(欧州を意味するユーロと広場を意味するマイダンを合わせた造語。キエフを中心に起こった反政府デモのことを指す)にも参加したオリニックさんは「脱露入欧」の政策を掲げるポロシェンコ氏の当選を期待するものの、旧態依然とした政治システムそのものが放置される可能性を懸念している。


「消去法とまでは言いませんが、実際に出馬した顔ぶれのなかから1人を選ぶとすれば、新大統領にふさわしいのは結局ポロシェンコ氏しかいないのではないかと思います。ユーロマイダンが行われていた時に、はっきりと反ヤヌコヴィッチ姿勢を打ち出し、デモ参加者を支援していたポロシェンコ氏が、新しいウクライナの象徴として多くの有権者から支持されていることに驚きはありません。大統領選への出馬を表明して以来、ポロシェンコ氏は世論調査で常にトップの位置をキープしていましたが、欧米寄りの政策が期待されての高支持率なのだと思います。企業家として大成功したポロシェンコ氏の経済政策や外交能力にも期待が高まっています。


 しかし、オルガリヒのポロシェンコ氏が大統領に選ばれた場合、ソ連崩壊後に誕生したオルガリヒの意向に沿って進められてきたウクライナの政治システムが改善されないまま放置される可能性もあり、内政面で本質的に何も変わらない危険もあるのです。ただ、彼より強いインパクトを有権者に与えられる候補者がいないことも事実です」

キエフの英字紙「キエフ・ポスト」にカメラマンとして勤務するコンスタンティン・チェルニチュキンさんもポロシェンコ氏の当選は当然と語る。


 チェルニチュキンさんは数日前まで武力衝突が続くウクライナ東部で取材活動を行い、大統領選挙を取材するために首都キエフに戻ってきた。投票開始まで数時間を切った25日早朝、チェルニチュキンさんが大統領選挙について想いを口にした。


世論調査が示すように、ポロシェンコ氏が優勢という構図は全く変わっていない。東部からキエフに戻り、この数日はキエフ市内で多くの有権者からも話を聞いたが、キエフ周辺ではポロシェンコ氏への支持が他の候補者を圧倒している印象を受けた。ポロシェンコ氏が大統領になった場合、経済と対ヨーロッパ外交では彼の手腕に一定の期待ができると思うが、ウクライナ東部の騒乱を鎮静化できるのかについては疑問だ。数日前まで東部の数都市を取材してまわったが、もはや誰が大統領になっても、ウクライナ東部の騒乱を鎮静化するのは困難だと思う。私の滞在した期間だけでも、ウクライナ軍と武装勢力との衝突が何度も発生し、多くの死傷者が出ている。20年前と比べると規模が大幅に縮小された現在のウクライナ軍では、東部の騒乱や分離・独立に向けての動きを鎮静化させるのには無理がある」

 オリニックさんが事情を語る。


ティモシェンコ氏が10年前と同じレベルの支持を得ることはないでしょう。この10年でウクライナ社会や経済がここまで疲弊してしまった原因を作った1人だと考えられているからです。ティモシェンコ氏に対する国民の失望は大きく、彼女に対して嫌悪感を抱く有権者も少なくありません。愛情が大きかっただけに、憎さも大きくなってしまったということでしょうか。その点、政治家としてのキャリアのなかでまだ大きな汚点を残していないポロシェンコ氏は有利だと思います。


ティモシェンコ氏人気が劇的に上昇することはないでしょう。ただ、彼女の所属する政党は全国に一定の支持基盤をキープしており、いずれ国会議員として政界復帰する可能性は十分にあります。今のところティモシェンコ氏が政界から退く気配はありません」

 前出のオリニックさんとチェルニチュキンさんも、「東部の治安確保と、武装勢力の排除が、新大統領が最初に手を付けるべき最重要課題」と口を揃える。

 オリニックさんが語る。


ウクライナ東部で武装勢力ウクライナ軍の検問所や投票所が襲撃され、死傷者が出ている現状を、『分離・独立運動」と伝えるメディアもありますが、これは北アイルランドバスクで起こったものとは根本的に違います。いわゆる武装勢力と呼ばれる反ウクライナ組織がロシアからの援助を受け、チェチェン紛争に投入されたロシア軍特殊部隊のメンバーも武装勢力の顧問としてウクライナ東部に潜入しているとウクライナ国内では報道されています。


 東部の問題をきちんと解決しなければ、やがて同様の騒乱が各地に拡大する可能性があります。そうなってしまった場合、国のコントロールは不可能になってしまいます。この問題とどこまで真剣に向き合えるかが新大統領のリーダーとしての能力を推し測る最初のテストになるでしょう」

ウクライナ東部の騒乱同様、早急にアクションを起こさなければならないのが、総額で14兆円以上となる対外債務の問題だ。ヤヌコヴィッチ政権崩壊後に発足した暫定政権も、発足直後に深刻な財政問題への対応策を発表し、公共料金の引き上げや公務員の賃金カットを実施すると表明したが、「焼け石に水」との声もあがっており、デフォルトの危険と常に背中合わせという状態が続いている。


 また、親欧米政権が誕生した場合、EUNATOとどのように付き合っていくのか。経済的な結びつきの強化だけではなく、安全保障面で欧米との関係強化がどこまで進むのかにも注目が集まる。そして、隣国ロシアとはどのような距離感を保つべきなのか。それぞれがウクライナの国としての根幹を揺るがしかねない大きな問題であるが、アクションを起こすまでの時間はそれほど残されていない。

 ユーロマイダンが行われていた頃、筆者が話を聞いたキエフ市民の多くは「どの民族でも仲良く共生できる社会になってほしい」と語っていた。ウクライナにとって新大統領が誕生するという社会が大きく変わるところまでたどり着いたが、チェルニチュキン氏が語るように東部の騒乱は誰が大統領になっても沈静化することはできないほどに泥沼化し、経済や社会は大きなダメージを受けた。


 大きくなりすぎた問題が横たわる現状は、ウクライナの多くの市民が描いた理想とほど遠い状況であり、その上、その現状の改善は新大統領にとっても困難なミッションだ。新大統領の誕生の瞬間にウクライナ社会を覆うのは、未来への希望よりも、むしろ果てしない徒労感なのではないだろうか。