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『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』著:中沢弘基---詠み手と読み手  | 読書人の雑誌『本』より | 現代ビジネス [講談社]

著者は、「生命誕生は地球史の必然である」とするオリジナルな生命起源論を、ちゃんとした学術論文を根拠に展開しました。46億年前、“火の球”だった地球が、宇宙に熱を放出して冷却し、地球のエントロピーの減少することが、生命の誕生やその後の生物進化の原因であるとして、地球の水素や炭素から生命が発生するまでを具体的に論じました。そんな“新しい生命起源論”ですから、それを広く次世代に伝えて、誰かがさらに一歩生命起源の謎に迫れるように、引用文献リストも添えました。正真正銘、科学の書です。


しかしそんな科学書であっても、異なる素養の編集スタッフ達が読むと、“生命像”と言うべき、別の何かが読み取れるようです。


似たような事例は、わずか十七文字で思いを表現する、俳句の場合にはよくあります。それほどでもない句が、すぐれた“読み手”によって、“詠み手”の意図より深い意味を持つ名句と解されることがあるからです。十七文字の“語間を読む”のには、素養や人生の力量が反映するのです。


科学論文や科学書は、できるだけ少ない語数で事実や論理を直截に記述することを旨としますが、それは冗長な文による曖昧さを防ぐためです。でも俳句や短歌ではありませんから、必要であれば正確に表現するための語数に制限はありません。英文であれ、邦文であれ、意図をいかに正確に、広い読者に誤解を生じさせずに伝えられるか、は論理構成を含めて著者(詠み手)の力量です。


しかし一方で、そうして書かれた書籍や論文から何を読み取るかは、深くも浅くも、結局は“読み手”の力量に依存します。

なぜ生まれたのか? なぜ進化したのか? 科学史上最大の謎が今解き明かされようとしている! 現代新書『生命誕生』 著者 中沢弘基氏インタビュー | 現代新書カフェ | 現代ビジネス [講談社]

動機といえるものではありませんが、きっかけは青年期に抱いた“生命の起源"への疑問だったかも知れません。直接的な契機となったのは、勤務先の研究所に、一組織を立ち上げる機会を得たことでした。

生命の起源に興味を持った青年期に、オパーリンやシュレーディンガーやバナールなどの名著を読んで学習しましたが、それらの「青春の書」は、その後の研究生活の中でずっと忘れていました。研究人生の後半に差しかかって、「面白い」研究テーマを探す中で、意識下のそれらがうごめいたのです。モンモリロナイトを研究することで生命起源の謎に挑戦できるかも知れない、と感じたのです。


ですから、「生命誕生」にかかわる研究をはじめた“動機"は?との御質問には、記憶の底に沈んでいた“青春の書"、すなわち青年期の疑問だったとお答えしたわけです。新組織の立ち上げは、動機ではなく、契機でした。

−−単刀直入にうかがいます。科学で「生命起源の謎」を解明できるのでしょうか?

−−キリスト教をはじめとして、生命は神によって創造されたと信じる人が少なくありませんが、こうした考え方について中沢先生はどのような感想をお持ちですか?

−−生命の起源を探る研究としては、高校の教科書でも取り上げられている、無機物から生命を構成する有機物が人工的に合成する「ミラーの実験」が有名です。近年、原始地球は、ミラーたちが想定した環境とはかなり違っていたといわれていますね。


中沢:それについては本書の第4章で詳しく説明しています。生命発生の素になった有機分子、例えばタンパク質の素のアミノ酸やDNAの素の核酸塩基などですが、それらがどうやって地球上に多量に生成されたか、を実験で示したのが「ミラーの放電実験」だったのですが、彼は当時の、1950年代初め頃の地球科学の知識で、原始大気が水素、メタン、アンモニア、水でできていたと想定していました。


しかし、20世紀末に急速に発展した地球惑星科学によって、原始大気は彼の想定した組成とはまったく違って、水や窒素や一酸化炭素であることが明らかになったのです。したがって、彼の実験および1980年代まで続いた類似の実験はすべて、その前提が覆ってしまいました。

−−生命の起源を探る研究は、化石を探す考古学的なアプローチとDNAの変異に着目する分子生物学的なアプローチがありますが、本書を読むと、いずれも行き詰まっていることがわかります。中沢先生の「分子進化の自然選択説」と「隕石衝突よる有機分子のビッグバン」という仮説は、この閉塞状況を打ち破るものです。読者にもわかるように、この仮説についてわかりやすく解説していただけますか?

−−話は変わりますが、生命は海で誕生したことが科学界でア・プリオリに信じられていますが、中沢先生は、こうした「科学界の常識」に異議を唱えていらっしゃいます。海洋起源説のどこに問題あるのでしょうか?

−−確かに言われてみれば、「生命地下発生説」は説得力がありますね。にも関わらず、なぜ多くの科学者たちはこの説を思いつかなかったのでしょうか?


中沢:はっきりした理由はわかりませんが、想像するに、地球科学の進歩によって生命が発生した頃の原始地球の様子がわかってきたのが、20世紀の終わりころからでしたから、それらの情報が有機化学を中心とする、これまで生命の起源を研究していた人達にまだ十分に伝わっていないことが理由ではないかと思います。また逆に、これまで生命起源の研究が、有機化学を中心に進んできたために、地球惑星科学の中で正面から取り上げられてこなかった、という事情もあると思います。今後、地球惑星科学的な視点からの研究が進み、他の分野にその成果が広く知られて行くにしたがって、理解されるものと思っています。

−−本書では、地球表面を覆うプレートがマントル対流によって移動するプレートテクニクスが生命誕生に決定的な役割を果たしたとの記述があります。生命誕生とプレートテクニクスが結びつくなんて驚きですね。なぜそんな着想を得たのでしょうか。


中沢:確かに、この着想にいたる過程は、オリジナルな良い演繹だったと自負しています。モンモリロナイトを研究するグループを組織して15年、そこそこの成果を挙げることができましたが、生命の起源については、注目すべき成果を挙げられませんでした。ミラーの実験、リボザイム、RNAワールド、タンパク質ワールド、古細菌、生物三界説、セントラル・ドグマ・・・・・・などなどなど、生命の起源をめぐる膨大な知識に溺れていて、研究の手掛かりがつかめなかったのです。


その理由は、これまで知られている膨大な事実を整理して、生命の起源にいたる“軸"と言うか、あるいは大局観とかパースペクティヴ(perspective)というべきものを、自分が持っていなかったからだったのです。この点に気がついたのは、粘土の研究グループの解散を控えて研究所を退官する1、2年前でした。大学の非常勤講師を引き受けて、生命の起源を講ずる準備をしている時でした。分子から高分子、高分子から組織体へと「有機分子は進化した」とするオパーリンの説を図に表現していて、その図に「どうして?」「なぜ分子は高分子に進化したのか?」という理由を示せないことにショックを受けたのです。生命の起源、すなわち分子進化を研究するつもりでいて、「なぜ分子は進化するのか、進化しなければならないのか?」の物理的必然性を理解していないことに気付かされたのです。


そして長いこと思索した結果が、本書第2章で説いた、分子も生物も、そして固体地球も、すべからく進化は熱力学第二法則に従った現象だ、と言う着眼でした。物理では当たり前のことです。火の玉だった地球が熱を放出し、エントロピーが減少することが、分子や生物が進化しなければならない理由だったのです。そうだとすると、原始地球が冷却する過程を化学的に見ることで、有機分子の生成から生命誕生まで、自然に理解できるはずです。隕石爆撃やプレートテクトニクスなど、地球進化の諸現象によって有機分子が自然選択された結果が生命誕生だったのです。

−−「生命地下発生説」を科学的に証明するためには、中沢先生たちはどのような取り組みをしているのでしょうか?


中沢:有機分子の生成やその後の自然選択を、原始地球の諸条件を実験室で再現することによって、証明することを試みています。40億年から38億年前にかけて生じた“隕石海洋爆撃"を模擬した実験による有機分子の生成は、ネイチャー・ジェオサイエンス誌に掲載されて、世界的にも評判になりました。地下3キロメートルあるいはもっと深いところの高圧力・高温下で、アミノ酸が容易に縮重合する実験結果も高い評価を受けています。

−−生命誕生には地球46億年の歴史が深く関わっているとすると、異なるヒストリーを持つ火星では生命誕生は難しいように思えます。現在NASAが火星で生命の痕跡を探す研究を進めていますが、彼らは生命の痕跡をみつけることができるでしょうか?


中沢:この点も本書の中で論じています。火星に水がある、あるいはあったらしいことが火星探査機の活躍でわかってきて、火星に生物が居る、あるいは居たかもしれない、と期待されています。水の次にアミノ酸など有機分子が見つかると、おそらく、その期待はさらに高まるでしょう。アミノ酸アミンなど比較的丈夫な有機分子が見つかる“可能性は"あるかも知れないと私も思います。しかし、一般の御期待に水を差すようで恐縮ですが、水やアミノ酸アミンが見つかっても、それらは「生命の痕跡」ではないでしょう。なぜなら、私たちが衝撃実験で実証したように、隕石衝突によって水、窒素またはアンモニアの存在する条件では、アミノ酸アミンが容易に生成するからです。隕石が海水の代わりに、氷に衝突しても同じ現象が起こります。火星や木星やその他の地球外天体にもそんな条件は充分あり得ると推定されます。
でも仮に、アミノ酸やその他の有機分子があったとしても、火星と地球の物理、化学的条件および46億年の歴史は大きく異なりますので、それらがさまざまな自然選択を経由して、生命誕生にたどり着く可能性は限りなくゼロに近いでしょう。ですから、威信をかけたNASAの努力にもかかわらず、生命の痕跡は見つからないと、私は推定しています。

−−生命が誕生するには、物理学・化学的な必然性があり、きわめて特殊な条件が重なった地球だからこそ実現したということですね。そのように考えると、私たちの存在自体がきわめて貴重なものに思われてきます。本書を読んで、私は人生観が変わるぐらいのインパクトを受けました。中沢先生はこうした生命起源の研究を通じて、何か物事の見方が変わったことはありますか?


中沢:読んでいただいて人生観が変わったとお聞きすると、著者冥利に尽きます。自分自身では一著を世に問うて人生観が変わったわけではありませんが、最近聞く機会が増えた「白骨経」をはじめ、仏教用語や概念が意外と、生命の物理的な理解と整合的だと納得することはあります。本書で余計な言を加えた「徒野の煙」とか「不殺生戒」もそうですし、「輪廻転生」や「六道四生」なども、エントロピーや生物進化と一脈通じそうです。


−−繰り返しの質問になりますが、生命はなぜ誕生したのか?生命はなぜ進化したのか?これは哲学的ともいえる根源的な問いかけです。本書では、この奥深い疑問に、きわめてシンプルかつ極めて科学的に明快に説明されています。詳しくは本書を読んでいただくとして、現代ビジネスの読者のために、概略をもう一度説明していただけないでしょうか?


中沢:私の表現力では、概略にするとわからなくなりそうで、なかなか難しい御注文です。物理の大原則の中に、熱力学第二法則というのがあります。熱の出入りのないところではすべてのものが最大限バラバラな状態になっていて、熱が出てしまうとその分、いろんなものが秩序化する、と言う原理です。これを地球に適用すると、地球はその創生以来、宇宙に熱を放出し続けていますから、大原則に従って地球も秩序化します。


熔けて均一だった最初の状態から、重い鉄が地球の核に、より軽い鉱物がマントルに、さらに軽い水素や炭素は水や大気となって、地球は層状構造に秩序化しました。プレートテクトニクスやプリュームテクトニクスで大陸や海洋もマントル内部も、今後はさらに3次元に複雑な構造に秩序化するでしょう。同じ原理で、炭素や水素など軽い元素が秩序化して有機分子となり、それら組織化して生命体ができたのです。


生命体は何もしなければ、バラバラに分解してしまいますが、代謝機構をそなえることで、身体を維持して“生きる"ことができているのです。生物進化も、より多量の有機分子が秩序化する過程であって、新しい種の出現は生物界全体の階層化、すなわち秩序化なのです。生命誕生も生物進化も、物理の大原則のせいだとわかります。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20140603#1401792587
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20140514#1400063835
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20131205#1386240307
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20130106#1357482765
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090707#1246962739