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サンクトペテルブルクで語られた「世界同時株安」へのシナリオ (連載「パックス・ジャポニカへの道」) - 原田武夫国際戦略情報研究所公式ブログ

それではそうしたロシアの頭脳である西部は一体どの様に動かすことが出来るのかというと、実はその梃子はモスクワではなく、サンクトペテルブルクにある。なぜならばこの街はロシアの台所であり、現在のプーチン大統領がその権力の座に就くにあたって必要な「財政基盤」を築き上げた場だからだ。

それではそのサンクトペテルブルクにおける金融利権の根本に何があるのかというと、何のことはない、ドイツに辿りつくのである。公的には事実関係が「否定」されているが、プーチン大統領は人的に見てもドイツ、しかも旧東ドイツの諜報機関「国家安全保障省(Staatssicherheit, Stasi)」やドイツを代表する金融機関との関係性が極めて深いことで知られている。すなわちドイツ、そしてそれをビスマルクの昔から突き動かしている国際金融資本の論理をお決まりのイデオロギー色を抜きにして知っていることが、本当のロシアを動かすためには必要なのである。

そうしたドイツを筆頭とする西欧流の金融資本主義を吸収しようと、ロシアが窓口として1992年から始めた国際会議。これが今回出席した「国際銀行会議(IBC)」なのである。

そしてそこでの議論は「ロシアがどうするのか」ということもさることながら、その大前提として「金融資本主義はこれからどうなっていくのか」について詳細に語り合われていたのが極めて印象的であった。
細かな論点はともかく、大ぐくりで言うとそこでの論調は「ややネガティヴ(slightly negative)」なものであったといえる。どうしても楽観論を語らざるを得ない立場におかれている政治家や、リテール向けの特定の金融商品に紐づけられている評論家たち、あるいはえてして小難しい理論を振りかざす学者たちとは異なり、銀行家であるプロ同士の会話は実に現実主義的だ。個別のディールはともかく、理性と理性をすり合わせ、議論をする中で「現状はこうであり、今後はこうなる」という共通認識をこういった国際会議での出席を通じて創り上げていく。細かなディールに拘泥することなく、金融資本主義そのものの鼓動にも相当する、この意味での「論調(narratives)」づくりに積極的に参加しているという意味での国際的な銀行家(バンカー)を日本の銀行セクターにおける現役幹部の中でほとんど知らない。
なぜこれら国際的な銀行家たちが「ややネガティヴ」な言葉ばかりを語るのかといえば、彼らには「これから何が起きるのか」がよく分かっているからである。ちょうどロシアが深刻な債務危機に陥った1990年代末、米欧の主要国を中心に各国は深刻なインフレに見舞われた。そこで導入されたのが「インフレ目標(inflation targeting)」であり、「ディスインフレーション政策」だったのである。政策金利を通じた為替レートの誘導でその後確かに深刻なインフレは姿を消すに至った。
だが、問題はそうした下降トレンドが今度は止まらなくなってしまったという点なのである。マーケットでは多くの国々の中央銀行インフレ目標を設定しており、ディスインフレーション政策をとっていることを知っている。そして現状では低めのインフレ(ラガルド国際通貨基金IMF)専務理事の言葉を借りるならば「ローインフレ(low inflation)」を維持しようとしているため、政策金利はいずれの国でもかなり低め、あるいは場合によって「マイナス金利」すら導入されているのだ。そのため、要するにカネが借り易くなっているので投資主体たちは安易にレヴァレッジをかけては過大なリスク・テイクを繰り返している。その結果、資産バブルが世界のあらゆるところで発生し、止まらなくなっているのだ。だが、バブルは必ずはじける。

さて、気になるのは我が国の「アベノミクス」に対する彼らの評価である。ちなみに我が国では5日、政府の産業競争力会議議員でもある竹中平蔵慶応大学教授が「新成長戦略は海外メディアでの受けがとても良い」と発言したと報じられた
だが、実際には全くそんなことはないのである。我が国政府が頭を下げて行ったパブリック・ディプロマシーの成果はともかく、金融資本主義の最前線にいる国際銀行家たちのアベノミクスに対する評価は実に辛口であった。簡単に言えば「やっていることが意味不明であり、論理的に矛盾している」というのである。つまりアベノミクスというと何といっても日銀による異次元緩和なのであるが、「そんなことをやるよりも前にやるべきことがあるだろう。なぜそれをやらないのか」というわけなのである。

国際銀行家たちは明らかにこれまでのシステムではもはややっていけないことを熟知しており、しかもそのことをかつて国際共産主義の中心であったロシアで語り合っていたというわけなのだ。明らかに今後は成り立たないシステムの「脱出口」の一つがロシアに求められているのかは余りにも明らかだったのである。一時のバブルに酔いしれる我が国をよそに、次のシステムとして何が適当なのか、その枠組みを提示するという作業においてこそ、我が国はより人財を投入し、リーダーシップを発揮していくべきなのである。サンクトペテルブルクから出されたメッセージは、その必要性をはっきりと示していた次第である。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20140705#1404557732