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焦点:中銀政策は再び「アート」の時代へ、透明性が信認に傷 | Reuters

世界の主要中央銀行の政策決定方法が、よりあいまいで「アート」の色合いが濃い以前の形に回帰しようとしている。金融危機時の明確な約束を掲げるやり方は、中銀の信認を損なう恐れがあり、実際の行動の代用にもならなかったことが判明し、終わりを迎えたのだ。


先進7カ国(G7)の中銀高官筋は「中銀の政策運営はかつてアートであった。いったんは世界的にその傾向が弱まったが、米連邦準備理事会(FRB)やイングランド銀行(英中央銀行、BOE)で起こった出来事を踏まえると、またアートに戻るだろう」と述べた。


FRBとBOEはいずれも、失業率が一定の水準に下がるまで事実上のゼロ金利を維持すると約束していた。しかし失業率が米英両国でエコノミストの予想よりもずっと急速に低下してしまったため、双方の中銀ともに突如として賞味期限切れとなった「フォワドガイダンス」の修正を迫られた。


この中銀高官筋は「あまりに透明性を高めてしまうと場合によっては逆効果になるかもしれない。つり合いを保つのはいつでも難しい」と話す。


2007─09年の金融危機とその後の深刻な景気後退への対応で政策金利を過去最低圏に下げた欧米の中銀は、フォワドガイダンスを新たな景気支援策として打ち出し、将来の政策運営方針を示して長期金利の低下を促そうとしてきた。


ナティクシスのグローバル・チーフエコノミスト、パトリック・アルテュス氏は「フォワドガイダンスの考え方は、透明性を確保することで長期金利により大きな影響を及ぼそうというものだった。だが中銀は信頼性を傷つけるリスクを冒している。もし何か予想外の事態が起きれば、それまで明らかにしていた道筋から外れざるを得ない」と指摘した。


FRBの評判は昨年春に打撃を受けた。当時のバーナンキ議長が債券買い入れ(量的緩和)規模縮小を「今後数回の会合のうちに」開始すると示唆すると米金利が急騰し、新興国資産も売りを浴びせられたのだ。複数のFRB当局者はガイダンスを再検討せざるを得なくなったと感じ、FRBの対話の拙劣さに批判が集まった。


一方、BOEも今年2月にガイダンス修正に追い込まれた。それまで失業率が7%を下回るまで利上げを検討しないと表明し、失業率の7%割れには3年かかると見込んでいたのに、実際は半年でそこまで低下してしまった。そしてBOEに続きFRBも今年3月、同じような約束を撤回した。


世界の中銀の政策をめぐる議論に詳しい複数の当局筋は、こうした動きによって政策のコミットメントを提供することの危険性が次第に認識されるようになったと述べた。


アラン・グリーンスパンFRB議長は今年4月のニューヨークにおける講演で「われわれは注意深く行動し、実際に生み出せるかどうか確信できないことにはコミットしないという姿勢を堅持しなければならない」と語った。


<有用なガイダンス>


FRBとBOEの最新のガイダンスは具体性がずっと低下している。


イエレン議長が初めて出席した3月の連邦公開市場委員会(FOMC)で示されたのは、量的緩和を終えた後も「かなりの期間」は事実上のゼロ金利を続けるという方針と、景気が全面的に回復した後も政策金利は過去の平均水準を下回ったままだろうとの見通しだった。


それでもイエレン議長が、FOMC後の会見で量的緩和終了後「半年程度」で利上げが始まる可能性があると発言すると、株価や債券相場の大幅な下落を招いた。


FRBはそれ以降おおむねより幅広い形のガイダンスの枠組みからは出ようとしておらず、特定の期日や失業率、物価上昇率などの特定指標を目標とするような局面に終止符を打っている。


BOEの前政策委員で現在は米ピーターソン国際経済研究所の所長を務めるアダム・ポーゼン氏は「FRBは今や『安直な言い回し』をやめて『有用なガイダンス』へと向かいつつある。これは何に対してもコミットすることなく、政策対応の観点で制約を受けないことを意味している」と説明した。


同じくBOEのカーニー総裁も、最近の発言においては利上げのタイミングをはっきり示すことはせず、むしろ市場に経済の強さや付随する不確実性を詳しく点検するよう誘導している。


ただカーニー総裁も適切なメッセージを送ることには苦労しており、先月に市場が早期利上げの可能性を過小評価していると述べると、投資家があわてて持ち高調整に走る場面もあった。


<言行一致>


日銀と欧州中央銀行(ECB)の政策運営の場合は、大胆な措置に裏打ちされるようになるまでは口先の約束に効果がないと証明する事例といえるだろう。


日銀は伝統的に政策にあいまいさをにじませる手法を好んできたが、そのやり方で日本経済をずっとデフレから脱却させられずにいた。ようやく黒田東彦総裁が就任した昨年3月に、2年で物価上昇率を2%に引き上げ、日銀の資産規模を2倍にすると約束すると、円安が進み、物価上昇率も目標の半ばまで上がってきた。


もっとも黒田総裁がその後に示したガイダンスはやはり鮮明ではなく、2%の物価上昇率が「安定的に達成される」まで大規模緩和を継続するとしている。


ECBは昨年のほとんどの期間、市場の緩和期待に対して思わせぶりな態度に終始した結果、先月にマイナス金利を採用してまで、口だけではないことを証明しなければならなくなった。


ドラギ総裁は必要なら追加措置を打ち出す意向を示唆してきたが、ECBにとって最後の手段とみられる量的緩和に踏み切るまであとどれだけ我慢するかについては明確にはなっていない。


ピーターソン国際経済研究所のポーゼン所長は「中銀当局者の中には、フォワドガイダンスをめぐっていろいろと空想にふける人が多い。それは量的緩和を阻止し、何かをやっていると主張できるからだ」と述べた上で、フォワドガイダンスはコストがかからないから非常に魅力的だったが、コストがいらない大半のものと同様にそれほど大きな価値もない、と冷ややかな見方をしている。