「デフレ=大恐慌」は例外 BIS年次報告書の警告|金融市場異論百出|ダイヤモンド・オンライン
BIS(国際決済銀行)は6月下旬に発表した第84期年次報告書で、従来の持論をあらためて展開した。「デフレという言葉に、異様に感情的になる傾向がある。それは即、大恐慌の亡霊を想起させる。だが、大恐慌のデフレは標準ではなく、例外だった」。
歴史的には、物価が下落しながらも生産が拡大していった時期が多々あった(第1次世界大戦前や戦間期など)。つまり、デフレは全てが危険なのではなく、「良いデフレ」「無害なデフレ」が存在する。また、近年の日本のデフレに見られたように、歴史的には、一般物価のデフレより資産価格の下落の方が、マクロ経済に大きな打撃を与えてきた。
それなのに中央銀行が一般物価の「良いデフレ」「無害なデフレ」に過剰反応して緩和策を大胆に行い、バブルを膨張させると、その破裂とともに「悪いデフレ」がやって来るとBISは懸念する。
この記述は「南欧のデフレを避けるために、ECBは量的緩和でも何でも行うべきだ」という最近の論調の危険性を強く意識していると思われる。日銀の金融緩和のやり過ぎも心配しているようだ。
今年の年次報告書は、先進国の中央銀行が現在行っている超緩和策の長期化が次の危機を招くリスクに特に焦点を当てている。株式のハイ・バリュエーション、狭いクレジット・スプレッド、低ボラティリティ、大量の社債発行が現在世界的に起きている。
それらは主要国の超低金利政策が招いたものだ。それが国債などの安全資産に投資しても十分な利回りが得られない状況を生み出し、「投資家のリスクへの食欲」を高め、「サーチ・フォー・イールド」(利回りを求めて徘徊すること)を強めている。
こういった状況から正常化に向かうことは、「前代未聞の困難を引き起こす」。だが、バブル膨張の弊害を考慮すると、「中央銀行は、金融政策の正常化開始を遅くしたり、引き締めペースを過度にゆっくりしたりする場合のリスクを過小評価してはいけない」とBISは主張している。
しかしながら、金融政策の正常化を阻もうとする「非常に強大で、あまりに自然な動機」も存在するという。その最大の勢力は、金利上昇を嫌がる財政部門だろう。異例の緩和策によって中央銀行が国債の金利を低く抑え込んできたが故に、緩和策を正常化させると、政府債務累積の“痛み”が顕在化してしまうからである。
このBISの年次報告書が発表された数日後に、イエレンFRB議長は講演で、金融政策と金融システム安定化策との連携を強めるべきではあるが、バブル抑制のために金融政策を使うことは適切ではないという認識を示した。
また、FRB幹部にとって、昨年の量的緩和策縮小(テーパリング)予告が住宅ローン金利を高騰させたことはトラウマになっている。FRBに限らず、イングランド銀行など他の中央銀行も、市場にショックを起こさないよう購入した証券を売却せずに、極めて慎重に正常化を進めようとしている。まさにBISが心配するリスクが今後顕在化する恐れがあるだけに注意が必要である。