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『戦史 (中公クラシックス) 』
P104

 だがその責任は諸君らにある。諸君がこの劣悪な詭弁に競争の場を与えるからだ。諸君はつねづね、話を目で眺め、事実を耳で聞くという悪癖をつちかってきた。口達者な連中が、かくかくの事件がやがて生じうると言えば、そのとおりかと思ってそれに目を奪われる。だが事が起こった後になっても、事実をおのれの目で見ても信じようとせず、器用な解説者の言葉にたよって耳から信じようとする。そして奇矯な論理でたぶらかされやすいことにかけては、諸君はまったく得がたいかもだ。とにかく一般の常識には従いたがらない、なんでも耳新しい説であればすぐその奴隷になる、だが尋常な通念にはまず軽蔑の念をいだく。そしてだれもかも、雄弁家たらんことを熱望しているが、それも現実にはかなわぬ夢とあっては、われがちに名聴衆たらんと狂奔する。雄弁家のむこうを張って、ただ考えるだけなら弁者の後塵を拝するものかとばかり、弁者が鋭い点を突けばその言い終わるを待たず拍手喝采し、言われる前から先に察しをつけようと夢中になるが、提案から生じうる結果を予断することにかけては遅鈍そのものである。これはみな、諸君が生活から遊離して、いわばうわの空で何かをつかもうとし、現実の事態を着実に認識しようとしないからだ。ようするに、諸君は一国の存亡を議する人間というよりも、弁論術師を取り巻いている観衆のごとき態度で、美辞麗句にたわいもなく心を奪われているのだ。

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