ヨーロッパ中央銀行は、2日、単一通貨ユーロの金融政策を決める理事会を、加盟国の一つ、イタリアのナポリで開きました。その結果、主要な政策金利を、過去最低の水準となっている今の年0.05%のまま据え置くことを決めました。
ヨーロッパ中央銀行は、先月、デフレへの懸念が続くユーロ圏の景気を下支えするため、政策金利を引き下げるとともに、金融資産を買い取る新たな対策を打ち出すなど、一段の金融緩和に踏み切ることを決めました。
ただ、その後もユーロ圏の先月の消費者物価指数が0.3%の上昇と、4年11か月ぶりの低い伸びにとどまなるなど、ユーロ圏の景気は厳しい状況が続いています。
理事会のあと記者会見したヨーロッパ中央銀行のドラギ総裁は、金融緩和の効果を見極めながら、金融資産の買い取りを少なくとも2年間は続ける方針を明らかにしました。そのうえで、「必要であれば、追加の措置を講じることで、われわれは一致している」と述べ、物価や景気の動向しだいで、今後、量的緩和を含む一段の金融緩和に踏み切る考えを改めて示しました。
ECBが買い入れ詳細公表、政策金利据え置き | Reuters
〔情報BOX〕ECBのABS買い入れ、声明の要旨 | Reuters
・買い入れは、少なくとも2年間継続する。
・買い入れを通じ、金融政策の波及効果を高め、ユーロ圏経済への与信を促す。結果的に金融政策の緩和度がさらに強まる。
・買い入れ対象の決定では、オペの適格担保基準が指針となる。
・買い入れは2014年第4・四半期に開始。まず10月後半にカバードボンドの買い入れを始める。
ECB理事会はきょう、シンプルで透明性の高いABSと、ユーロ建ての様々なカバードボンドを買い入れる新プログラム運用の主な詳細について一致した。
買い入れ対象とするABSとカバードボンドの決定では、オペの適格担保基準が指針となるが、担保としての受け入れと直接の買い入れは異なるため、一定の調整が必要になる。
すべてのユーロ圏加盟国を買い入れプログラムの対象とするため、オペの適格担保基準を満たしていないギリシャとキプロスのABSとカバードボンドについては、リスク緩和策を取ったうえで、特別ルールを適用する。
買い入れは2014年第4・四半期に開始する。まず10月後半にカバードボンドの買い入れを始める。ABSの買い入れは、外部のサービスプロバイダーを選定した上で開始する。
ABSについては、シニア・トランシェと保証付きメザニン・トランシェを発行市場・流通市場の双方で買い入れる。
買い入れ対象となるシニア・トランシェは以下の条件を満たす必要がある。
・オペの適格担保基準(今後修正される可能性もある)を満たしている。
・ユーロ建てで、発行体がユーロ圏の居住者であること。
・ユーロ圏の居住者である非金融民間部門に対する債権が裏付け資産であること(レガシー、新規組成を問わず)。債権の最低95%がユーロ建てで、最低95%がユーロ圏の居住者に対する債権でなければならない。
・少なくともCQS(クレジット・クオリティ・ステップ)3で2番目に良い格付け(適格外部格付機関の格付けでは現時点でBBBマイナス、Baa3、BBBlに相当)を取得していること。
・ギリシャとキプロスの非金融機関民間部門に対する債権を裏付けとするABSは、CQS3で2番目に良い評価という基準を満たせないため、次の要件を満たすことを条件とする。
(1)格付け以外の上記の基準を満たすこと。
(2)当該国で実現可能な格付けの中で、上から2番目の格付けを取得していること。
(3)現在の信用補完率が最低でも25%であること。
(4)投資家向けリポートと、標準的なサードパーティーのABSキャッシュフロー・モデルリング・ツールでABSのモデルが入手できること。これをECBが評価する。
(5)サービサーを除くすべての取引カウンタパーティーが少なくともCQS3で最高の評価を得ており、サービス提供の完全なバックアップ体制がとられていること。
保証付きメザニントランシェの基準については、後日公表する。
<ECBの実績>
ECBはまず、金利を下限であるゼロ近辺に引き下げ、どの主要中銀も実施していないマイナスの中銀預金金利も導入した。
次に異例の規模の流動性をシステムに注入し、さらなる一連の措置を承認したばかりだ。
2012年にはシステム規模で危機対策を実施し、その結果、金利を広範に引き下げた。
ECBを悪者とする見方は修正されるべきだ。
<政策の「駆け引き」はない>
駆け引きが大々的に行われているということはない。他の政策の存在でわれわれの措置がより効果的になる、あるいは、時には他の政策によって初めてわれわれの措置の効果が出るということを承知している。それぞれの役者が演じる役割がある。
<ユーロ懐疑論>
物事がうまくいかず、違った方向に進んでいるためユーロ懐疑的になるのは非常に理解できる。この地域では失業がまん延し、経済活動は非常に低調となっており、一部の諸国はリセッション脱却が不可能かのように見える。このため、人々が前向きになると期待するのは難しい。欧州の別の地域の人々は、他の人たちの代金を支払っていると感じているため同様の懐疑論がある。
<TLTRO>
「的を絞った長期資金供給オペ(TLTRO)」は、銀行がECBから借りた資金を確実に融資に回すよう設計したものだ。融資を行わなければ、すべてを返済する必要が生じる。
<ギリシャのABS>
(ギリシャが資産担保証券(ABS)の購入対象となるには)プログラムが必要だ。プログラムが無ければ、買い入れも無い。
<バランスシート規模の重要性>
すべてにおいて非常に正確な数字を求める気持ちは理解できる。その方が楽だからだ。ただ、バランスシートは非常に重要だが、手段に過ぎない。規模そのものを強調しようと思わない。
われわれが守る必要のある究極、唯一の責務とは、インフレ率を2%未満で近辺の水準まで戻すことだ。これが、現在、さらに将来講じる可能性のある措置が成功したかを判断する究極の基準だ。
<為替レート>
為替レートは政策目標ではないが、物価安定および成長の双方にとって重要だ。
<ABS買い入れ>
資産担保証券(ABS)買い入れについては、慎重さを伴いながらもできるだけ包括的であることが望ましいことから、ギリシャ、キプロスなど格付けが「BBBマイナス」以下の国々も買い入れ対象とすることを決定した。留意点は2点ある。
1点目は、当該資産の買い入れ場所が異なってもリスクは同等であるよう、特定の買い入れを行う際のリスク軽減措置を複数用意しているということ。2点目は、慎重な対応に関することで、基本的に(買い入れ)対象国は欧州連合(EU)との継続中のプログラムを保持すべきということだ。
<構造改革の加速>
複数の諸国では構造改革の立法と実行が加速される必要が明らかにある。これは製品および労働市場とともに、企業にとっての事業環境改善に向けた措置を含む。
<財政政策>
財政政策に関しては、ユーロ圏諸国はこれまでの進展を後戻りさせてはならず、安定成長協定のルールに沿って前進するべきだ。これは、各国政府が現在公表している2015年予算案に反映される必要がある。
<非伝統的手段用いる用意>
ECBによるすべての措置が経済に波及し、インフレ率の目標水準への回帰に寄与するだろう。
低インフレの期間が過度に長引くリスクにさらに対処する必要が生じた場合、理事会は責務の範囲内で追加的な非伝統的手段を講じるという決意で一致している。
<物価リスクを注視>
EU基準の消費者物価指数(HICP)の年率の伸び率は向こう数カ月にわたり低水準にとどまり、その後2015年と2016年に緩やかに加速する見通しだ。理事会は中期的な価格動向の見通しに対するリスクを引き続き注視する。
<景気回復への逆風>
高水準の失業率や能力の著しい未活用、引き続き民間への融資の伸びがマイナスであることや官民で必要なバランスシートの調整などが今後も景気回復を阻害する公算が大きい。
<下向きの景気リスク>
ユーロ圏の景気見通しに対するリスクは引き続き下向きとなっている。特にユーロ圏成長の勢いがこのところ弱含み、地政学リスクも高まっていることは、信頼感に加え、とりわけ民間投資を圧迫する恐れがある。
<緩やかな回復>
ユーロ圏の緩やかな回復見通しに変更はない。ただ、この見通しの基礎となっている主な要因や前提は注視する必要がある。
<緩和スタンス>
われわれの資産買い入れは金融政策の緩和スタンスをより広範に強めることになる。また、主要政策金利についてのフォワードガイダンスを強化し、主要先進国間の金融政策サイクルの違いが著しく、さらに拡大しているという事実を明らかにしている。
<ABS・カバードボンドがバランスシートに及ぼす影響>
一連の「的を絞った長期資金供給オペ(TLTRO)」が2016年6月まで行われるが、それとともに(資産担保証券=ABSとカバードボンドの)買い入れに伴い、われわれのバランスシートに大きな影響が及ぶことになる。