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イノベーションのジレンマを乗り超えるための「哲学」とは? ほんとうの「哲学」に基づく組織行動入門【最終回】 | 早稲田大学ビジネススクール経営講座|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

 ところが、である。現在、科学は高度に細分化するにつれて、ごく一部の高度な専門知識と技術、データにアクセスできる環境にある専門家以外は実質的に確かめることはできなくなった。つまり科学の持ち味であった、検証可能性に開かれたオープンな言語ゲームという側面は極めて限定されているのである。それに対して、第5回では誰もが実践できるよう本質観取の手続きを示したように、ここで提示してきた原理的哲学は、それぞれが批判的に吟味し、確かめることができる。そして、「いや、これについてはこういう例外があるし、もっとこう置いたほうがよい」という形で、誰もが新たな原理を打ち出す開かれた言語ゲームになっている。つまり、誰もが確かめられること、代案を出せること、世界説明のためのオープンな言語ゲームであることが科学的アプローチの意義であったが、今、これを充たせるのは、むしろ“原理的哲学”のほうなのである。そういう意味で、ここで示してきた哲学は通常の社会科学よりも検証可能性に開かれた、「学問の条件」を備えていることがわかるだろう。

現象学創始者であるフッサールは、人文、社会科学は事実学(自然科学的スタンス)ではなく、本質学であらねばならないとして普遍学を構想した。そして、それはドラッカーがその天才的な本質観取力により実践していたことでもある。それを誰もが参加できるオープンゲームとして再生させ、フッサールの普遍学の構想を実現するための枠組みが私の提唱する構造構成主義なのである。


 構造構成主義はもともと学問の原理論として構築されたメタ理論であり、医療、教育、福祉といった様々な分野に応用されてきた。この連載で紹介してきたのは、その哲学を組織行動に応用した「本質行動学」という新たな学問であり、そのエッセンスでもある。そしてこの学問は人類が初めて遭遇した未曾有の複合大震災において、「日本最大の総合支援プロジェクト」を実現した(注5)。これらは本質行動学が厳しい現実下で大きな成果をあげる類稀なる実践力を備えていることを傍証しているといえよう。


 これは従来の組織行動を批判するものではまったくない。むしろ、組織行動が生み出してきた知見がソフトだとすれば、それらをバージョンアップさせるOSが本質行動学なのである。というのも、個々のアプローチにしても、エビデンスにしても、「何が良いのか」「どう使えば良いのか」を考える際に根本のところで役立つのが「価値の原理」であり、「方法の原理」といったメタレベルの考え方に他ならないためだ。哲学が「諸学の女王」と呼ばれていたのは故ないことではないのだ。いまやこういうべきだろう。ほんとうの哲学こそ、本物しか生き残れない今のビジネスの現場に最も欠けているものであり、それゆえ最も求められているものであると。

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