日本企業よ、「小さな巨人」でいいじゃないか 欧米流の規模追求と決別、日本らしい経営の姿|日の丸製造業を蘇らせる!“超高速すり合わせ型”モノづくりのススメ|ダイヤモンド・オンライン
三菱重工を日本が誇る重電企業の雄だとすれば、弱電業界の雄はソニーであった。「ウォークマン」は新しい生活スタイルを世界に提案した。かのスティーブ・ジョブズもソニーフリークだった。しかし、世界中を虜にしたソニーがこの5年間、もがき苦しんでいる。期初の業績見通しでは積極的な目標を掲げるも、期中で業績の下方修正を繰り返す。メディアにとって、ソニーのトップやCFOが深々と頭を下げる映像はデジャブのようだ。
なぜ1年や2年間、業績を犠牲にして改革することが宣言できないのか。大きな病を患った人が、社会復帰に時間を要するのは当然だ。ソニーは大病を患った。大きな手術が必要だ。日常生活に戻るには時間がかかる。そう宣言しても良いのではないか。
一方で、こんな声が聞こえてくる。
「松本さん、それは理想だよ。仮にそんなこと言ったら、株価は下がるし銀行への説明がつかない」
「でも、結局下方修正するなら同じでしょ?」
「違う。計画が大切なんだよ。『やる前から弱気でどうするんだ』と搾られるよ。無理でも前向きな計画を出せば、通るんだ。現実的な計画を出すと、『その程度であれば、あなたにお願いする意味がない』とまで言われるんだよ」
「つまり、こうですか。実現困難な計画であっても立てることが重要である、と」
「そこまで極端なことは言わないし、その現実と理想のギャップを埋めるために経営は仕事をするわけだからね。でも本音を言えば、成長路線を脇に置いて、じっくり組織の改編や伸び切ったゴムのようななSCM網を再構築したいところだよね」
「すればいいのでは?」
「それは難しい。世の中には、『成長しなくてはならない』『大きくならなくてはならない』という論拠のない暗黙の前提条件のようなものがあるよね」
テスラモーターズのCEOであるイーロン・マスク氏は、「世界を電気自動車中心の社会へと導くことで、21世紀の最も有力な自動車会社になる」と、自社のミッションステートメントで宣言している。
最も「巨大」な企業になろうとしていない。最も「有力」な企業になろうとしているのだ。
日本に目を移すと、マツダとスバルが絶好調だ。スバルは日本の自動車会社で唯一利益率が10%を突破している。販売台数は最下位の第8位だが、利益は第4位だ。マツダの「デミオ」は、今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。スバルとマツダは共通点が多い。
スバルの社長は、インタビューで「売れるからと言って大幅増産をしない。微増産が良い。多少品薄感が良い」と答えている。「成長できるならドンドン成長しよう」などという考えはない、自分たちの価値観を優先している。
今、我々は気づくべきではないか。欧米流の価値観をインストールして大規模や大量を追求する経営だけではなく、日本に適した経営スタイルが存在することを。大なる組織をぶんぶん振り回し、積極投資を重ねて、スピード勝負でアメリカ的な土壌で戦うことは、日本人には適さないのではないか。
日本の誇るソニーや松下電器産業(現パナソニック)が、激しい成長競走の渦に巻き込まれ、サムスンなどといった海外企業のスピードと資金力に圧倒され、疲弊し、憔悴し切った姿から、何を学ぶべきだろうか。
そもそも日本は、世界とは一線を画して独自の歴史を歩み続けてきた。「ユーラシア大陸の東の果ての島国」という辺境の地としての地理的特殊性が、独自の価値観や文化を育んできた。
日本は、存在自体が独自で稀有なのだ。わざわざ、欧米流の「大規模」「大量」「勝ち負け」の価値観に歩み寄る必要はなく、独自の価値観や土壌で成長していくことでも十分成功できるし、その方が理に適っているのだ。むしろ日本の軸を世界に広めることが、世界中に良い価値観を蔓延させ、好循環へと誘うことができると考える。
行き過ぎた「効率」は単調かつ創造性を阻害する。「手間暇」かけて取り組む姿勢も尊重する。この文化が、背後から忍び寄るライバルよりも先んじることとなる(「効率」よりも「手間暇」)。
何事も「論理」的に判断すると窮屈だ。ときには、「論理」で判断できない肌感覚的な判断の方が、結果につながることは多い。ソニーの「ウォークマン」などは、その最たる例だ(「論理」よりも「感性」)。
「すり合わせ」で編み出されたモノや技術が、成熟の過程で「組み合わせ」へと進化する。常に先を走るには、「すり合わせ」にこだわるべきだ。ただし、戦略的にこの両者をハイブリッドする姿が最近はトレンドだ(「組み合わせ」よりも「すり合わせ」)。
松下幸之助氏は、儲けよりも先に社会貢献や顧客を考えていた。事業=儲けではなく、社会の課題を解決することが事業であった。洗濯機や掃除機や冷蔵庫は、儲かるから開発したのではない。お母さんが毎日買い物に行かなくて済むように、冷蔵庫を開発し、毎日の洗濯や掃除にかかる時間から解放してあげたいから、洗濯機や掃除機を開発したのだ。「先義後利」の精神だ(「成長」よりも「貢献」)。
日本に求められるのは、行き過ぎた物質消費文明がつくり上げた様々な課題を解決する「課題先進国」としての姿だ。
日本食をはじめ日本文化や日本精神は、世界中から高い評価を受けている。その価値観に立脚した企業経営の姿は、世界中から賞賛を持って受け入れられるだろう。